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イン・ディス・ワールドのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

イン・ディス・ワールド(2002年製作の映画)
4.0
パキスタンのペシャワールのアフガン難民キャンプからロンドンへ密入国して亡命する若い難民二人の危険な旅。フィクションとは思えない、ルポルタージュのようだった。全て現地の人が登場する。

リアル過ぎておそろしかった。実際のアフガン難民二人が本物の密入国業者の手引きでロンドンを目指す。トラックの荷台の食品や家畜に隠れる、歩いて雪山を越える、船、コンテナ、トラックの腹に潜る等、どんな方法を使ってもロンドンへ行こうとする。

世界の難民は1400万人。アジアには500万人。うち100万人がペシャワール周辺にいるという(製作当時)。主役の少年はアフガン難民キャンプで生まれ、故郷を知らないまま、未来の見えない中で親戚と暮らす14歳の孤児。可愛がっている弟、親戚、友達を捨て、従兄がロンドンへ亡命するのに同行する。少年はアフガン難民キャンプで教育を受けていて、英語ができたため通訳として同行するのだった。

パキスタン、アフガニスタン、イラン、トルコまでは陸路。イタリアへは船のコンテナ。フランス経由してイギリスへはトラックの下に板を張り隠れドーバーをトンネルで越える。延べ6400kmの危険な旅。

撮影方法も同乗者の手持ちカメラのようだし、夜間は赤外線カメラだったり、途中見つかって振り出しに戻されたり、銃で脅されたりする。

密入国は命懸けで悪い密入国業者はお金を巻き上げるかもしれないし、人身売買があるかもしれない。誰を信じていいのかわからないほど怪しい人が入れ替わり立ち替わり現れたが、意外と皆わるくはなかった。ただお金を渡せばいい。公務員への賄賂がまかり通る。

亡命者は日常なのだろう。
 

アフガン難民キャンプでは教育を受けられ、ビジネスができることも知った。既に一つの町であるが、パキスタンに間借りしているわけで、故郷が安全になれば、いつか帰りたいと望んでいても、9.11以降のアメリカ、多国籍軍による軍事攻撃で難民がさらに増えていった。

この作品は9.11直後に撮られたため、ピリピリした緊張感が伝わってくる。

アフガンとパキスタンの国境は開いていて、往き来はしやすいようだが、難関はその先である。

特典巻末でイギリス人監督が製作した意図を語っていた。「アメリカでは難民を受け入れているが(撮影当時のこと)、ヨーロッパは積極的に受け入れる姿勢がないので、どんなに大変な思いをしてヨーロッパを目指してくるのかを描きたかった。」

そうは言ってもヨーロッパではドイツが最大に受け入れているし、難民鎖国の日本の比じゃないと思った。

西に向かうほど西側の資本主義的生活に変わっていく様子がわかる。少年は英語を話せたが、従兄は話せず、まずは言葉の壁がある。言葉もアフガン出身であることがバレないように喋らず、服装も西側風のスタイルに替えていった。私には顔立ちではアフガン人、イラン人、トルコ人の区別はつかないのだけれど、他国人に成りすましても、地域の人には微妙な差がわかるはず。見逃しているようだった。

地中海はトルコ経由のアフガン難民、シリア難民の海路になっている。トルコがアジアからの脱出ルートの最後の希望の港。そこを出発すれば、と希望を抱き海に出るが、命を落とす難民は後を絶たない。

巻末の特典で知ったのだが、主役の少年は撮影が終われば従兄とキャンプに帰国する予定だったのに、難民申請してロンドンに留まった。しかし、申請は却下され18歳になったら強制帰還される。それまでは不法移民として家族のためにロンドンで働くそう。

この後にドキュメンタリーの『海は燃えている イタリア最南端の島』を観る予定です。地中海を渡る難民のための玄関口となっている島。想像だけど、難民がいる限り、不法に密入国する人を助けるビジネスがある。正式な救いの手がない限り、必要悪は存在する。

filmarksのスコア低い理由がわからないです。難民とその亡命のルートをリアルに見せた意欲作だと思う。
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