マクガフィン

アウトレイジのマクガフィンのレビュー・感想・評価

アウトレイジ(2010年製作の映画)
4.0
裏社会に生きる男たちの熾烈な権力闘争を描いたバイオレンス・アクション。アウトレイジ・シリーズの第1弾。

閉じられたヤクザ社会の僅かな歪みからくる軋轢が相乗して、相対的に反応するシステムに。次第に狂気の渦に飲み込まれていく模様が圧巻で、組織の論理を基に空転する権謀術数が続く栄枯盛衰は、狂ったエネルギーがどんどん相乗する展開が興味をそそる。

冒頭の縦列に進行する車をロングショットの俯瞰のシーンが鮮烈に。順序良く本家の会合から出ていく一列に走る車はヤクザの組織を表し、その後から遅れて走る大友組の車は組織の秩序の乱れを象徴する。それと同時に車を追う固定カメラの角度移動からタイトルをインサートする一連のタイトルバックの精緻が秀逸で、紛争の禍根の不気味さが漂う。

無駄な台詞を「バカヤロー」の怒号に集約したかのように抽象化された独自な編集で、叙情や共感やドロドロした人間模様を極限まで削る世界観は北野監督ならでは。幾多の悪人や卑劣漢と軋轢とも自滅とも共食いとも捉えられる構成がマッチしているようで、全編にただならぬ気配が張り巡らす。

俳優のパブリックイメージと異なる配役が多く、各々が活き活きしており作品のクオリティに直結する。
椎名桔平の正気が感じられないニヒルな笑みは、「ソナチナ」同様に死を連想しており、不気味さや妖艶さが漂う演技はベストアクトに。警察署の前でニヤニヤしているだけのシーンはその象徴で、警察に捕まらい最後を迎える暗示のように思え、暴虐の限りを尽くした者の因果は非業の末路に辿り着くことに妙に納得する。
小日向文世の二面性の下衆っぷりが次第に爽快になり、ジャブ一発で落ち目のヤクザを表す描写にハッとする。三浦友和はリアクションだけで絵になり、加瀬亮は『それでもボクはやってない』と同じ役者には見えない内に秘める凄味が良い。

ヤクザの世界を描いているとはいえ、ヤクザに対する憧憬や美化は作中では全くなく、逆に「自己中心的」「他力本願」「義理人情の希薄」「責任放棄」といった現代社会へのメタファーが溢れ、先見の明や慧眼な者が生き残るメカニズムもまた然り。

・2010年 邦画 助演男優賞:椎名桔平「アウトレイジ」