あすとろ

アングスト/不安のあすとろのネタバレレビュー・内容・結末

アングスト/不安(1983年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

彼は殺しをする、我々が食事をするのと同じように。

1980年、ヴェルナー・クニーセクが起こした一家惨殺事件を題材としたホラードラマ

※ネタバレありの感想にしてますが結末的なネタバレは書いていません、主人公のバックボーン的な情報のみ触れていますので前情報無しでご覧になりたい方は観賞後にお読みください。

本作はとにかくスゴイです。
恐怖演出としてではなく、映画として“必要な表現”として殺人描写を取り入れてます。
1シーン1シーンがいちいち気味悪く、その上ワンカットが割と長回しなので結構観終わった後に気は滅入ります。
殺しの数としては他の作品より少ないんですが実際あった殺人としては多い部類に入るのかな、と思います。
ただ一つ一つの殺しの動機が陰鬱としていて、サイコスリラー系でよくある「俺の殺しを見てくれ!」などの自己顕示欲や「殺しこそが芸術」というような物では無く「俺はこうしたいから」という純粋な動機だからこそ“異常さ”を感じました。

また主役のアーウィン・レダーの演技が怪演をも越えていて、もはや「憑依してる?」って程の演技で行動だけでなく目すらも狂気に染まっていてそれを画面いっぱいにクローズアップされるのは殺される被害者の視点のような感じで恐怖を感じました。

この映画は確実に賛否両論、特に否が多めに意見が分かれると思っていますが個人的に彼の殺人衝動は実は誰もが持つ物だと感じて子供がおもちゃで遊んだり、お腹が空いたから食事を取るなどと同じレベルの衝動で“自分が欲するから殺す”という単純明快で、でも経験したことがない者にとっては一生かけても理解できない衝動なのだなと思いました。
だからこそ構造的な計画はあっても、手順的な計画は皆無でそれを側から見ると手際が悪い衝動的な殺人に見えてしまうのだと感じました。
しかもその映像をほぼカットを入れずに映すので良い意味で演出的な手際の悪さをより感じる事ができます、そこがまた居心地の悪さを加速させる要因だなと思いました。

また、殺しは彼なりの感情を表すものだと思っていて幼少期の頃に受けた両親からの虐待が故にトラウマが残り「あの人が好きだな」という“感情”ではなく「自分の想像通りの物にしたい」という“衝動”になるんだろうな、と思いました。
「子供や好きな人に何故無償で愛を注げるのか?」と聞かれたら恐らく大体の方は「好きだから」と答えるかと思います、そこに具体的な感情は無く、それが衝動的な物であり欲望でもあるのです。
それと同じで彼にとっての衝動かつ欲望が“殺し”というツールなんです、なのでそこに理由は無いんだと感じました。

上記のように感じたこともあり、本作には一方的に被害を受ける被害者が何人か存在していますが主人公である彼も実は被害者であり、一番の不幸な人だと思いました。
だからと言って殺しが正当になるとは微塵も思ってません。
残忍で無慈悲で映画というツールを使って俯瞰的に観た自分ですら気分は良くなるものではありません。
でも「本作を反面教師に!」と謳うつもりもありませんが“愛を知らない人間はどうなるのか?”という一つのifルートとして現実と照らし合わせて観てみるのも良いのかなと思いました。

めちゃくちゃ長文で感想を書き綴っちゃいましたが、個人的には本作は結構好きな作品でした!
万人にオススメ出来るような映画では無いですが、1983年に製作されたものの現代の作品と負けず劣らずな内容と映像、そしてこだわったカメラワークは映画好きなら一見の価値はあると思います!
是非“覚悟”を持ってご覧あれ…!
あすとろ

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