のほほんさん

アングスト/不安ののほほんさんのレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
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事前に得ていた情報はざっとした概要のみ。
VHSで発売されていたらしいというところが気になっていた。
自分が映画にドップリ浸かった原体験はやはりVHSの鑑賞にある(当時既にDVDもあったのだけど…)ので、VHS独特のザラついた感じはそそるものがある。

そして本作。
ます、有無を言わさずに始まるのが良い。
冒頭からカメラワークに目が行く。特に主人公が方向転換をすると彼を中心にぐるっと回り、しかし彼から目を逸らさない。
テレビで演者さんの表情を捉えるために着けるカメラの映像に近いが、それをさらに洗練させた感じ。

カメラワークは本作においてかなり特徴的。獲物を見つけた彼の異様な心理を垣間見せるアップやその獲物のアップ。彼を追ってまとわりつくように捉え続ける視点と、彼の歩調に合わせて揺れ動く、彼と同体になったような視点。かと思えば殺人をして色々屋敷を動き動き回る彼を俯瞰で見る(今なら確実にドローンの)空撮だったり。
この、彼を一人称で捉えるのか第三者として冷静に見つめるのか、という視点が複雑に入り乱れる。

もう一つの特徴は音楽だろう。
後でタンジェリンドリーム(名前だけは知ってる)の人が作ったと知ったが、40年近く前の物とは思えないスタイリッシュさ。それでいて期待通りのVHS感もあり。
数種類のパターンが繰り返されるのだが、これが唐突に始まったり終わったりする。音楽がそれ単体で素晴らしく、そしてそれを綺麗にではなく、あえて乱暴な使い方をしているのが、まさに異常な精神の不安定さを実感させられた。

全体の印象としては、映画作りの確かな腕を持った人があえて乱暴に荒々しく作った印象。しかしその乱暴さも全て計算づくなのも感じる。
彼と一体化するような視点があったからといって彼に移入するはずもないし、彼の精神の異常さには戦慄するばかりである。
彼が殺人を犯す光景をただただ見せられるのは胸糞の悪い影像でしかない。しかし、それでいて時に滑稽さもあるその光景から目を離すことも出来ない。

モラル的にはとんでもない話であるし、劇場で見かけたデートのカップル(しかも高校生)の行く末を心配する内容ではあるが、作品としては素晴らしかった。
まあ、おススメする相手を選ぶ内容でもありますね