櫻イミト

アメリカン・ニューシネマ 反逆と再生のハリウッド史の櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.5
原題「A Decade Under the Influence(影響を受けた10年間)」。1968年~1978年のアメリカ映画を各監督、プロデューサー、俳優たちのインタビューと共に紹介するドキュメンタリー。

邦題では「アメリカン・ニューシネマ」と謳っているが、その範疇に数えられることのなかった作品も含めて総花的に紹介している。冒頭は「ハロー・ドーリー」(1969)のプレミア上映の模様を映しながらスター中心のハリウッド・システムの終わりが語られ、ヌーヴェルヴァーグからの影響、カサヴェテス監督とロジャー・コーマンによるインディペンデントの幕開け、差別・性・戦争に対するカウンターとしての映画表現を映画人たちが振り返る。

コッポラ、スコセッシ、シュレイダー、ボグダノヴィッチ、アルトマン、フリードキンらが語るちょっとした制作裏話が面白い。一方、名監督たちに混じって女優ジュリー・クリスティーが度々登場し自らの出演映画を紹介するのだが、ことごとく知らない映画ばかりで新鮮だった。

構成は決して時系列というわけではなく、映画人たちのインタビュー内容に合わせて大雑把なテーマを数珠繋ぎで並べている印象。なのでドキュメンタリー作品としてはまとまりに欠けるが、資料としては貴重かつとても興味深い。

ラストは、「ジョーズ」(1975)「スターウオーズ」(1977)の登場に伴ってハリウッドは収益中心主義に、観客が求めるものも変質して行ったと総括される。先日観た「コーマン帝国」(2011)も全く同様の締めくくりで、いかに同作が時代を変えたを思い知った。それから50年が経とうとしているが、以降の映画界で大きな変節点はあっただろうか。

監督のテッド・デミは本作の完成直前に心臓発作を起こし38歳で亡くなった。体内からはコカインの成分が発見された。まるで本作を制作しながら70年代映画に殉死したようだと言ったら不謹慎だろうか。

※日本語字幕監修は町山智浩とのこと。序盤から「ハロルドとモード」のフィルムに「真夜中の青春」の字幕が付いていたのは頂けない。「イングマール・ベルイマン」の字幕を頑なに「ベイルマン」と表記していたのも気になった。


■引用映画リスト ※フィルムのみ。スチールでの引用は省略。
ボブ&キャロル&テッド&アリス(1969)
ハロルドとモード(1971) 
卒業(1967)
【参考】勝手にしやがれ(1960)
【参考】突然炎のごとく(1961)
俺たちに明日はない(1967)
フエィシズ(1968)
こわれゆく女(1974)
殺人者はライフルを持っている(1967)
イージーライダー(1969)
スケアクロウ(1973)
ジョー(1970)
ブルーマンハッタン哀愁の摩天楼(1970)
真夜中の青春(1970)
さらば冬のかもめ(1975)
悲しみの街かど(1971)
フレンチ・コネクション(1971)
ラスト・ショー(1971)
マッシュ(1970)
ギャンブラー(1971)
スリーパー(1975)
アニー・ホール(1977)
ゴッド・ファーザー(1972)
ゴッド・ファーザーPARTⅡ(1974)
エクソシスト(1973)
チャイナタウン(1974)
ドアをノックするのは誰?(1969)
ミーン・ストリート(1973)
狼たちの午後(1975)
キング・オブ・マーヴィン・ガーデン(1972)
愛の狩人(1971)
ウイークエンド・ラブ(1973)
ヤング・フランケンシュタイン(1974)
アリスの恋(1974)
結婚しない女(1978)
コール・ガール(1971)
ひとりぼっちの青春(1969)
大統領の陰謀(1976)
シャンプー(1975)
カッコーの巣の上で(1975)
タクシー・ドライバー(1976)
帰郷(1978)
ネットワーク(1975)
ジョーズ(1975)
スターウオーズ(1977)
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