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10番街の殺人のRのレビュー・感想・評価

10番街の殺人(1971年製作の映画)
4.8
すっすごい…心に闇が染み入ってくるようなこんなすごいサスペンスひさびさに見た! 冒頭、リチャードアッテンボロー演じるハゲでまるくてメガネの不気味なクリスティが、気管支炎を患うおばさんを狭苦しい家に招き入れ、さぞつらいでしょう、と吸入器を口にあてる。医者にしちゃ不気味だな、と思って見てると、苦しみで暴れだすおばはんを押さえつけ、ガスで気を失わせたあとロープで絞殺して家の庭に埋めてしまう。1944年のその殺人の5年後、クリスティが家の二階と三階をフラットとして賃貸してるところへ、赤ん坊連れの若い夫婦がやって来て、部屋を借りることになる。ただでさえ貧しい夫婦はさらにもう一人子どもを授かってしまい、生まれる前に始末するしかないなって運びになったとき、クリスティが、ボクは医師の訓練を受けてて堕胎を何度もやったことがあるからやってあげよう、と申し出る…そして、5年前と同じ悪夢が繰り返される…という流れで、最初から最後まで演出が陰湿で気狂いじみててホントすばらしい。まず、画面が暗い。影の部分が多いうえ、暖色が画面にほとんど現れず、どんより寒々しい。なのに、まったく見づらいということがなく、むしろ照明が的確で、すべての画が精密に計算されてて、見事としか言いようがないダークさ。クールかつスタイリッシュ。音楽は全然なく、硬質な物音とクリスティのボソボソボソボソ喋る口調だけが耳に残る。リチャードアッテンボローの声のトーンとブリティッシュなサウンドは聞いてるだけで気持ちいい。殺人シーンは、じわじわ恐ろしい反面いろいろ障害が起こって滑稽でもある。突き放したような映画的エモーションの欠如をただ観察することしかできないのがもどかしくも気持ち良かったりする、この不思議な感覚。いったい何なんだ! のあとのアッテンボローのぶるぶるぶる。全体の暗黒ムードのなか、ひとり、アホ丸出しの若き赤貧旦那を演じるのがジョンハート。学がなくて文字を読むこともできず、見栄を張るために周りにバカな嘘ばっかついてる。どこまでも可笑しすぎるバカたれなのだが、全体の重苦しいムードのためなーんか笑えない。しかもどんどんますます悲惨なので見終わった後も変に心に残る印象的なキャラクターだ。で何やかんかあったあとの終盤の大胆な省略と視点の切り替えはクールでシビれるし、最後の穴を覗くシーンは好き過ぎて震えた! ホントすごい映画です。ここまで映像と音のスタイルそのものに魅せられる映画ってそうそうない気がする。DVDがもっと安ければ即刻買っていることでしょう。廉価版だしてちょうだい。フライシャー監督いまんとこ見たやつどれもすばらしい! レンタルで観れる作品が少ないので是非ともレンタルで見れるようにしてくださりたし。とりあえず見えない恐怖はさっそく見てみよう。
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