[アートとジョーク]
バンクシーという人物は、ロンドンを中心に活動する覆面を被った謎の芸術家である。社会風刺的グラフィティアートやストリートアートをゲリラ的に描く伝説のアーティストだ。彼の「初監督」作品とのこと。
そしてもう一人。この映画の主役となるのは、ストリート・アートについてひたすら映像を取り続けるフランス人映像作家ティエリー・グエッタ。
このティエリーという人物がこの作品の主を担うのだけれど、この人物がそうとう面白い。「できるものなら日常の全てを記録したい」と彼は言い、カメラをひたすらに回し続けていた。そんな彼の前に、街中にスプレーでグラフィックを書いたり貼り付けたりするストリート・アートと出会いついに「被写体」を見つける部分はまずテンションがあがった。
ストリート・アート(グラフィティなど)はゲリラ的に行うため、翌日には撤去されたり消されてしまうので、アーティスト側も映像として記録できる事を待っていた。
しかし今思えばこの「アートと記録の関係性」から、すでに私は「バンクシーの術中」にハマっていたのだろう。
そしてティエリーは、なんとかしてバンクシーへとアプローチを試み、アートの深みへと落ちていく。さらに彼はミスターブレインウォッシュという陳腐なネーミングとともにアート界へと進んでいくのだが...
とても楽しく見終えた後、私の頭にはある疑問が残っていた。
この作品はバンクシーが「監督」したものだ。バンクシーという人物の性格、性質から考えると、そもそもこの作品自体...
いや、待てよ。
そもそも彼の考えるアートとは?
いやいや、ミスターブレインウォッシュは実在している。と、いうことは?
しかし?
あれ?
待って、そう考える事自体...
私の頭には、劇中のバンクシーのある言葉だけが響いていた。
「ジョークだよ」
闇の中にあるその顔は、
ニッコリと笑みを浮かべているように見えた。