Nasagi

ことの次第のNasagiのレビュー・感想・評価

ことの次第(1981年製作の映画)
4.0
ヴィム・ヴェンダース記録⑨
SF映画を撮っている最中にトラブルに見舞われ、撮影中断になってしまった映画監督の苦労をつづった話。

映画監督の男が主人公ということで、当時のヴェンダース自身の思いを代弁させているっぽい。
ヴェンダースが本作を撮ったのも、ちょうど自身初のハリウッド映画『ハメット』の撮影が、プロデューサーだったF.F.コッポラの命令で中断(2度目)されていた期間だった。なのでたぶん頭の中ではハリウッドコノヤローとかコッポラのバカヤローとか考えてたんだろうな。

ただ、本作にあらわれている不満や疑問は、単なる当てこすりのレベルに留まらない思索的でおもしろいものになっている。またそのような「真面目くさった悩み」を抱えてしまうヴェンダース自身のことが、作中で一歩引いて冷静に見つめられているようでもあった。
撮影中断になった夜に、主人公のフリッツ監督は撮影クルーたちの前で演説を打つのだが、そこでのセリフは
「物語は物語の中にしか存在しない。だが僕の考えでは、人生は物語を必要としない。」

それに対してクルーの大半は「はあ?何言ってんだお前」的なリアクションをする。当のフリッツも自信満々に語っているというよりは、どこかヘラヘラした感じ。こういう小難しいことを言ってもなかなか他人には理解してもらえないだろうなということを彼もわかっている。
ちなみにこのシーンではクルーたちが一堂に会しているにもかかわらずスリーショット以上がほとんどなく、登場人物たちそれぞれの交流の断絶が強調されている。フリッツが話をしている部分でも、それを聞いているクルーたちは同じ画面に収まらず、フリッツの独演会みたいにも見える。

さらに、フリッツがプロデューサーと話をつける場面では、「物語がなけりゃ映画は作れない。壁がなくてビルが建つかよ?」と唱えるプロデューサーに対してフリッツは反論を試みるが、彼の語り口は弱々しく、相手の男も「ハリウッド、ハリウッド…」と歌を口ずさむばかりで耳を貸そうとはしない。
「物語は語れるが残念なことに、物語が入ると生命が逃げていくんだよ。物語というのは死の先ぶれだ。」
物語性を否定してありのままの姿(=ことの次第)をカメラに捉えたいというフリッツの主張は空しく響いている。もちろんこの映画自体も、物語性から完全に逃れられてるわけではない。ハリウッドが求めるような映画は撮りたくない。でもかといって純粋に自分が撮りたい映画を撮ろうとしてもうまくいかない。そういう映画作家の板挟み的な悩みがあらわれた作品だとおもう。


備忘録✍
モノクロの美しい撮影
音楽がしみてくる
『捜索者』の小説、『続・夕陽のガンマン』の口笛→カウボーイ(フリッツ)
ゾートロープみたいな格子ごしのショット
弁護士役にロジャー・コーマン
スタッフはラウル・ルイスの『領域』から流用→フィルム不足で撮影が中断してた
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