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バード★シットのninjiroのレビュー・感想・評価

バード★シット(1970年製作の映画)
4.6
凄い。何が凄いって頭から尻尾までもうずーっとふざけまくり。一本の映画でこれだけ徹底してふざけることが出来るものなのか。普通の映画ならこの混沌をコメディとして成立させる為に一本の作品としての質を大いに犠牲にする必要があるだろう。しかしアルトマンはそんなことは意にも介さず手際鮮やかにバンバン捌いて彼の他の作品の中にも類を見ない程の「緻密なカオス」を紡ぎ出す。
前作「M★A★S★H」で一発デカく当てた実績を盾に、製作側の指図は一切受け付けないという条件の下、アルトマンのこれでもかのやりたい放題がメジャースタジオで炸裂する。それだけでも痛快というものだ。
本邦での公開の折、「Brewster McCloud」という原題に「BARD★SHIT」なる邦題を付け、「★」の部分に仄かに「M★A★S★H」を匂わせて何とか売ろうとした当時の配給の苦労も偲ばれるが、確かにこれには相当頭を抱えたであろうことは想像に難くない。
冒頭に書いたように、この作品は意図的にカオスを描くことに主眼が置かれており、「M★A★S★H」のような一般的な笑いの誘発を目的とするコメディとしては成立していない。何しろ登場する人物全員がものの見事に全員おかしいのだ。しかも彼らは普通のコメディ映画にありがちなあからさまな変人という訳ではなく、皆が皆もっともらしい顔して如何にも真っ当なことを言っていそうで、そのくせ安心してちょっと気を抜くとその背後からバカがダバダバ漏れ出してて、え?と思えど誰かが突っ込みを入れてくれる訳でもなく何となく観ているこちらばかりが気まずくなってしまうといった感じ。
また劇中、本格サスペンスが動き出すかと思いきや二、三歩目で早々に蹴つまずき、手に汗握るカーチェイスが始まるかと思いきやただ延々と車が走るだけ。始まりそうで何も始まらない。数多のボケにも数多の伏線らしい何かにも誰も突っ込まず誰も回収しようとしない、何かしようとすれば直ぐにそれらは全て混沌の中に取り込まれてしまう。作り込まれた所謂「映画的な映画」に慣らされていればいるほどに、この不条理な混沌が支配する作中世界はユーモラスというよりも私達の現実により近く、あたかも広大な泥沼のように映るだろう。
類型を無視し続け、左にハンドルを切ったから当然左に曲がるだろうという無意識レベルの感覚を悉く丁寧に裏切りまくり、何の担保も無いままに信じ続けられる映画的常識、延いては社会通念という名の只のお約束の危うさをおちょくり、無意味な意味に火をつけ燃やし、人の尊厳と星条旗をきっちり鳥の糞に塗れさせる。それに翻弄されて唖然とする私達を、アルトマンは嘲笑う訳でもなく、ただ冷めた視線で見つめ続ける。

兎にも角にも、これは普通の映画ではない。
鑑賞後、もしこの映画の結末に胸のざわつきを感じたならば、これはきっとあなたにとって「怖い」映画になるだろう。
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