ほーりー

突撃のほーりーのレビュー・感想・評価

突撃(1957年製作の映画)
4.3
先日、カーク・ダグラスがついに逝き、1940年代の男性スターはこれで壊滅となった。
 
百三歳という大長寿だったせいか悲しいという気持ちよりは一つの時代が終わった感慨の方が大きい。

ここ三十年間は話題作には出ていなかったけど、それでも新聞で訃報がそれなりの大きさで掲載されたことに改めて故人の存在の大きさを感じた。
 
既にアイコンはカーク・ダグラスの似顔絵に変更しているけど、ここで追悼として氏の代表作のひとつでスタンリー・キューブリック監督の『突撃』をチョイス。
 
個人的には1950年代の反戦映画の中ではこの『突撃』よりはアルドリッチの『攻撃』の方がお気に入りなのだが、本作も腐敗しきった軍隊内部を鋭くえぐった作品として負けず劣らずの傑作である。
 
しかも理不尽さで言えばこの映画の方が『攻撃』を上回っていると思う。
 
舞台は第一次世界大戦のフランス軍。恐らく第二次大戦のアメリカ軍だと色々と差し支えがあったのかな。事実『攻撃』はその為にアメリカ軍が一切協力してくれず撮影が大変だったとか。
 
アドルフ・マンジューとジョージ・マクレディ扮するフランス軍の将軍たちは難攻不落のドイツ軍の基地を陥落させるため師団に無理な突撃命令を下す。
 
カーク・ダグラスは将軍たちの部下である元弁護士の大佐を演じている。兵士たちが犬死にしてしまうことは見に見えていたダグラスは当初は反対するものの、結局は命令通りに出撃する羽目に。
 
案の定、敵軍からの集中砲撃と機銃掃射で兵士たちは後退を余儀なくされ、その不甲斐なさに激昂したマクレディ将軍は突撃作戦が失敗したのは彼らが命令不服従だったからと難癖をつけて軍法会議にかけてしまう。
 
というあらすじ。
 
実際に当人が敵前逃亡して軍法会議にかけられるのであれば百歩譲って理解できるが、本作では聯隊全体が命令不服従の罪で起訴され、ただ見せしめとして選ばれた三人の兵士を銃殺するという他に例をみないほど酷い展開となっている。
 
ある兵士はクジ引きで決まり、またある兵士は普段の素行が悪いからという理由で決まり、さらに直属の上官に反抗的だと理由だけで選ばれた兵士もいる。

何も悪いことはしていないのに敵ではなく味方に銃殺される彼らの悲嘆ぶりには観ていて胸が痛くなる。
 
元凶であるマンジューとマクレディの将軍たちが本当に憎たらしかった。
 
さて部下たちを助けるために元の職業を活かして軍法会議では彼らの弁護人を引き受けるカーク・ダグラス大佐。
 
前半の突撃命令シーン(キューブリック監督のドキュメンタリー調の映像が素晴らしい)にて近くに砲弾が炸裂しても動揺ひとつ見せないダグラス大佐も頼もしいが、軍法会議での立ち振る舞いも印象的だった。
 
でもこの映画のダグラスで一番印象的なのはラスト。
 
軍隊内部の愚かしさに嫌気がさして恐らくこのままでは軍人を辞めるような勢いだったカーク・ダグラスがある光景を見たことでふと考えを改める場面である。

それまでの鬼の形相が次第と柔和になっていき、また彼らのことを信じようとするダグラスの表情が良かった。
 
それにしても社会人になってからこういう戦争映画を観ると、会社で実際に自分の身にも降りかかった上司やお客さんから受けた理不尽な思い出がふと蘇ってくる。
 
結局、平和や人権に対する考えは第二次大戦の頃から大きく変化したのかもしれないが、根本的な人間の根性はさほど変わっていないような気がする。
 
という訳でカーク・ダグラス追悼レビューでありました。故人の冥福を心よりお祈りいたします。

■映画 DATA==========================
監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック/カルダー・ウィリンガム/ジム・トンプスン
製作:ジェームズ・B・ハリス/カーク・ダグラス/スタンリー・キューブリック
音楽:ジェラルド・フリード
撮影:ゲオルク・クラウゼ
公開:1957年12月25日(米)/1958年2月19日(日)
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