SatoshiFujiwara

七月のクリスマスのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

七月のクリスマス(1940年製作の映画)
4.3
コーヒーのキャッチコピー募集に応募したジミー(1等は25000ドルの賞金)は自分のアパートの屋上で婚約者ベティと一緒にラジオでその結果発表を待ち構えている。2人の会話が次第に気まずい雰囲気になってベティが戻る際、ベティは段差から落下しそこにいきなり登場する黒猫。この直後にベティは花壇をひっかけてこれも落として割ってしまう。2つの落下と黒猫。

同じシークエンスで下の階の自室の窓からジミーの母親が屋上にいるジミーを呼ぶシーンでも上下の垂直軸が顕になり、多分この辺りはベティ及びジミーの人生における浮き沈みの比喩なんではないか(ちなみにここで一瞬登場するウサギ小屋にいるウサギのショットは何の意味があるんだろうか)。

ズボンのポケットから小銭を落とすジミー、これに対して「落とし物は福を呼ぶ」と喜ぶ母親(「落ちる」運動と幸福の問題)、そして終盤ジミーのオフィスに再度登場する黒猫(「これは幸せの予兆か不幸の予兆か」と不安がるベティに対しそこにいる掃除夫は「これから起こること次第」というトートロジカルな回答をする。要は運と必然の話だからトートロジカルなこの回答は極めて本質的)、そしてオチがついた後のラストショットで下降するエレベーターに乗り込んだベティとジミー、そのエレベーターの中から外に向けたカメラに一瞬映し出される黒猫。都合4回登場する黒猫と落下=下降運動の意味の変容。ついでにベティがたびたび呼びかける「Oh,Jimmy…」というセリフに込められたニュアンス/意味の変化。

冒頭で気まずい雰囲気になりつつもまさに別れ際に互いの愛を確かめ合うかのように抱擁を交わす2人と「Good night♡」の繰り返し、直後に階下から屋上に同じ「Good night!」(早く寝ろ!)と怒鳴る隣人のおっさんのセリフとの対比。67分といういかにも短い上映時間の中にミニマ厶な素材を上手く料理して簡潔かつスピーディに話を展開する辺りいかにもプレストン・スタージェス的な良作と感心しきり。
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