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浜辺の女のnetfilmsのレビュー・感想・評価

浜辺の女(2006年製作の映画)
3.8
 ソウル市内にある呑み屋、映画監督のチュンネ(キム・スンウ)は、後輩の美術監督チャンウク(キム・テウ)を引き連れ、いつものように呑んだくれている。極度のスランプに陥り、新作の脚本が書けなくなったチュンネは後輩を西海岸のシンドゥリに誘うが、珍しく先約があると言って断る。1泊だけして帰れ、俺は残って書くと豪語する先輩に、後輩は渋々、恋人ムンスク(コ・ヒョンジョン)を連れて一緒に風光明媚なシンドゥリを目指す。監督を後部座席に乗せ、チャンウクが運転する車の助手席で、女は鼻歌を歌う。かつて自らが美術を担当した自主映画で、ムンスクと知り合ったチャンウクには奥さんがいるが、彼女との煮え切らない関係を断ち切れずにいた。やがて車は西海岸のシンドゥリに到着する。夏になる前のタイミングの平日の避暑地は閑散としているが、ペンション「白樺」のオーナーは法外な値段を吹っ掛けてくる。だが黄砂の飛んで来ないシンドゥリは心地良く、3人は刺身で酒を呑んだり、シーズン・オフのビーチで海を眺めたり、自由気ままに過ごしていた。そのうち突然、ムンスクが監督のファンだったことが明かされ、監督も満更でもない表情を浮かべるが、チャンウクは心穏やかではない。

 またしてもホン・サンス映画お得意の三角関係に彩られた2人の男と1人の女。本来、スランプを回避するためにシンドゥリの地にやって来たチュンネは、背の高い女の自由奔放な美しさにすっかり魅了され、『女は男の未来だ』のようにどのタイミングで後輩を出しぬこうか画策している。後輩を酔い潰し、夜の浜辺で偶然にも女と落ち合ったチュンネは突然、浜辺でキスをする。「奇跡について」という未完成の草稿は、主人公が3度体験した偶然の奇跡を描いているが、今作も散りばめられた事象が何度も反復を繰り返す。離婚し、見境のなくなった監督はやがて30代半ばだと思われる女を希望通りに抱くが、シナリオのアイデアは降りて来ず、この地に残る。映画は開巻から半分あたりを迎える頃、ムンスクによく似たチェ・ソンヒ(ソン・ソンミ)という女が現れ、監督の心はバラバラに引き裂かれる。だが『気まぐれな唇』のような2層構造の物語は、ムンスクがこの地に引き返したことが新味となる。3本の木を巡り、真にスピリチュアルな礼拝をした監督は、避暑地で若い女2人を抱き、突然雷に打たれたかのように貪欲な創作意欲が掻き立てられる。ドリちゃんという名の置き去りにされた白い犬、邪念をどこかに追いやる奇妙で滑稽な3角形の説明、右脚を挫いた男、泥酔した自分の上を誰かが跨いだことが気にいらない女、ベッドの下に置き忘れた財布、作品を出す度にあざとさが増す巧妙なズームの多用も見逃せない。
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