たく

山椒大夫のたくのレビュー・感想・評価

山椒大夫(1954年製作の映画)
4.8
すべてが美しいがゆえに残酷は深まる。
そんな一言が浮かんできた。
田中絹代が演じる母は、元国主の妻らしく、落ちぶれても凛とした佇まいで息子と娘を育て、夫の信念を子供達に伝え続ける。そして、引き裂かれた後は一途に思い続ける。息子と娘は父と母を敬い、困難な状況でも再会を心に期し続ける。
そんな母と子それぞれの日々を、溝口監督は寸分の狂いもないとでもいうような、絵画のような美しい映像で切り取って観客に見せる。
だからこそ、美しい人々の美しい思いが絶たれてしまう場面に私たちは残酷さを感じるのだ。母親が足の腱を切られるシーンや、厨子王が命じられるがままに老人の額に焼ごてを入れるシーン、そして安寿が入水するシーン、これらのシーンはすべて〝その場面〟は描かれていない。それでも、というか、それだからこそというのか、美しきものが絶たれてしまう場面を私たちは頭の中で想像し、より強く残酷さを感じるのである。
残酷さを伝えることの本質を考えさせられる。

また、この映画の深さは、正義と悪という単純な構図で登場人物を描いていないところだ。溝口監督は、領民に善政を施したいとお上に楯突き、左遷されてしまう父親や、領主となって部下からの進言に頑なに耳を貸そうとしない厨子王の姿など、「一刻者」の〝限界〟を知った上で、彼らの信念が本当に正しいのかという問いを私たちに抱かせる。

美しく生きることは、今も大変な困難を伴う。
「残酷なまでの困難に直面してもあなたは美しく生きる覚悟はあるか」。
そんな普遍の真理を、私たちに問う深さがこの映画にはある。

やはり、これは紛れもないマスターピースだ。
たく

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