ベイビー

山椒大夫のベイビーのレビュー・感想・評価

山椒大夫(1954年製作の映画)
4.2
前作の「雨月物語」に引き続き、二年連続でヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した今作。

ずっと観たいと思っていたのですが、近くのTSUTAYAに置いてなかったので、いっそのことAmazonでDVDを購入しようかと思っていた矢先、なんとタイミングよく、NETFLIXさんの方で配信されていました。NETFLIXさん、good jobです!

原作は森鷗外の「山椒大夫」。中世から説話で伝えられてきた「さんせう大夫」をもとに、森鷗外が小説として書き下ろした、安寿と厨子王の伝説。

この物語は冒頭で、

「これは、人がまだ人としての目覚めを持たない、平安朝末期を背景に生まれた物語である」

と言っているとおり、人身売買で人を買い、金で買った人を奴隷にし、人を人だとも思わない扱いで飼い慣らす、そんな人で無しが出てくるやるせない話です。

まだ幼さが残る厨子王と安寿の兄妹(原作では安寿14歳、厨子王12歳)は、上役との連座で小倉に飛ばされた父の平正氏に会いに行くため、母と姥竹の4人で旅をしている途中、人買いに拐われ母と離ればなれになってしまいます。

親元を離れ、泣きじゃくる厨子王と安寿。その二人を買い付けたのが山椒大夫という、丹波の国の大地主。二人は十年以上も山椒大夫の下で辛酸を舐めながら過酷な労働に耐え、"いつか必ず母を迎えに行こう"と互いに誓い助け合うのです…

前作の「雨月物語」もそうでしたが、稚拙で粗暴で自分勝手な振る舞いをするのはいつも"男"で、"女"はどれも弱者でありながら、優しく、強くあり続け、ほとんどの女性がこの作品に何度も出てくる菩薩様のような存在として描かれています。

それと併せて特徴的なのが、息を飲むような見事なセット。溝口健二監督は、黒澤明監督と引けを取らぬ完璧主義なんでしょうね。山椒大夫の屋敷とその元で働く奴隷たちとの暮らしの落差。栄華と貧困のコントラストが増す増すこの物語を残酷に際立たせます。

その細部のこだわりから漂う画力はさすがです。あえて登場人物の主観に入り込むようなズーム画面を使わず、長回しとロングショットを多用して、客観的な目線で物語を追い続けます。そこに奥行きのある美しい構図が手伝い、色彩のない画面がとても表現豊かに感じられました。そして、なにより日本の風景が美しすぎます。

うーむ。やはり面白い。さすが巨匠の作品は、色々と勉強になりますね。
ああ、今日の日本の映画も、このような日本の美しさを追求してもらいたいものです。
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