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連隊長レドルのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

連隊長レドル(1985年製作の映画)
2.5
[無駄な描写だらけで必要な描写が希薄、ブランダウアー三部作②] 50点

長年見たかったクラウス・マリア・ブランダウアー三部作の二作目。しかし、前作「メフィスト」の冗長さが更に増大して悪目立ちしている退屈な長いだけの文芸大作に仕上がってしまった。別国民との無駄なロマンスといい他国に支配された民族自決問題といい、同時代のルーマニアを描いたリヴィウ・チューレイ(Liviu Ciulei)の「絞首刑の森(Forest of the Hanged)」を思い出してしまった。

一次大戦前夜、オーストリア=ハンガリー二重帝国。貧農出身のレドルはその愛国心を買われて名門陸軍学校に入学し、貴族の親友クビニを得て卒業する。しかし大人になると、貴族であるクビニとルテニア人貧農であるレドルの間には大きな溝が出来始める。この溝は徹頭徹尾オーストリア=ハンガリー帝国の愛国者だったレドルとハンガリー人貴族だったクビニの国のあり方の違いにも起因している。また、レドルは同性愛者であり、クビニの魅力的な姉カトリンに惚れられながらもクビニを気にし続けるが、その愛情は一方通行であり叶うことがない。

主人公アルフレッド・レドルは同性愛者であることをネタにロシア帝国のスパイにされた実在の将校であり、本作品は実話を基に製作されているのだが、彼が"貧しい"という創作設定を付け加えたがために話の輪郭がボヤケてしまっているのが一番の敗因だ。加えてシュトルムとクビニの決闘シーンやカトリンとのロマンスなど本筋とあまり関連のない話に時間を割いているくせにクビニの反ハプスブルグ思想を簡単に切り捨てたり同性愛者であることをハッキリ述べた上で逃げたりするのは残念だった。これによって「メフィスト」には辛うじて存在したテンポの良さと物語の求心力が失われたと思われる。

ロシア戦線に送られたレドルは規律の乱れた遠征軍を立て直し、諜報参謀に迎え入れられるが皇太子のクーデター計画に知らず知らずのうちに参加してしまったことでスパイの烙印を押され、自殺を迫られる。後任にはクビニが着任する。真の愛国者は搾取されて死に、裏切り者が生き残る。そんな話にしてはクビニの描写が薄すぎる。

思い返してみれば「メフィスト」だって退屈だったが絶望の一本締めで全体の印象が上がってしまっていた。本作品はその"締め"すら弛緩しており、ただ疲れるだけの映画だ。岩波ホールの硬い椅子でオジサマ方が見るのには最適なんじゃないか。
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