半兵衛

眠りの館の半兵衛のレビュー・感想・評価

眠りの館(1948年製作の映画)
4.0
美しき人妻が意識を失っているうちに見知らぬ列車に乗っていた…という冒頭の導入が完璧で、そこからそれぞれの思惑をもった登場人物が次々と登場して物語の全貌が中々見えなくて主人公のクローデット・コルベール同様ハラハラしながら映画の行方を見守っていた。そして主人公の夫や家に出現する謎の男の不穏な行動が緊張感を生み、光と影の映像と共にフィルムノワールの雰囲気を盛り上げる。

ただメロドラマの名匠サーク監督らしく、様々な仕掛けでお客を驚かせることよりも「愛の物語」を優先させていることを感じさせる。例えば中盤判明する事件の全容はいかにもミステリーではあるが、作中ではそういったサスペンスは主人公と夫ドン・アメチーとの愛が離れていることを際立たせる道具になっている。そこから死の危機に立たされるコルベールのエピソードも、主人公がどうなるかというハラハラドキドキよりも愛の崩壊とそこへ親しくなった男性ロバート・カミングスが現れて新たなる愛が芽生えたことを示唆しているのも象徴的。後半の三人の駆け引きはもはや完全にメロドラマの三角関係。

物語の解決よりも、新たなる愛が結ばれたことに重点を置いて描かれるエンディングが愛のミステリーらしい余韻を残していく。この手のサスペンスでは珍しい警察が出てこない(連絡はしている)こともメロドラマらしさをより一層醸し出す。

銃やブレスレット、眼鏡、暖炉の引っ掻き棒などといった小道具の使い方が巧みでいずれも物語を盛り上げるアイテムとなっている。あとアクション描写の巧さも印象的で、後半主人公がロバートに銃を渡すシーンのスピーディーな演出や、銃撃戦で冴えを見せる。あと喜劇要素の多さ(それに結構面白い)が緊張感で固まった心を解きほぐす。

でもやはり他の登場人物が語っていたが、この事件の手口はよく考えたらかなりまどろっこしい。○○を使って死に追い込むのは映像ではありだけど途中から何べんも失敗する様を見てさすがに「面倒臭いなあ」と見てるこっちまで思ってしまった。素人がいくら頑張ってもあそこまでうまく行くわけがないし。
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