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クハナ!のotomisanのレビュー・感想・評価

クハナ!(2016年製作の映画)
2.8
 子どもたちのジャズコンテスト挑戦を物語る。みんな、アクシデントにめげずアドリブを利かせて吹かしまくるが、なぜか失格。でもめっちゃ楽しい。んだそうだ。知った事か。脚本通りにしゃべってれば、水風呂に浸かってたって天国だと叫ぶしかあるまい。
 勝ち負けにこだわらないとは大した達観だが、勝つことを目標としない挑戦も事業もどこにあろう。ならばなぜコンテスト参加など持ち出すのか。でれでれした臨時教員の口から大人風を吹かせるよりも、きちんと失格の理由つまりは、この映画、地方創生を謳い、クラウドで金集めまでした映画を半端ものにしようという理由を示すよう審査員に詰め寄らせるべきだろう?
 子どもに向き合う際に目前の事に勝っても負けても、やっと一勝目一敗目に過ぎん事の戒めを語れんでどうする。楽しみを知ったとはいい事だが、しかし、知力も技術も全開させたその当人達こそ失格の意味を知りたいはずだろう。なにか?これでいい思い出が出来て小学校最期の一年とてもよかったですとでも子供らに言わせたいのか。いい思い出を抱いて、いづれ東京にでも行きますと愛想つかされて、それが地方創生なのか?
 子どもらの楽しげなのと裏腹に大人たちの意気地の無さが際立ってしまった。却っておもしろいくらいだが、廃校になる小学校のために桑名市は県大会を勝ち上がって進出する東海大会の遠征費が出せないんだそうだ。そこで民間活力の利用をと言いたいのかネットオークションで賄うという。実に今どき風だが、面白ついで、コッソリ参加する校長先生に目標額まで金額のつり上げ役をやらせて知らぬ他人の鈴木ウドに捻出させるのだ。いかにお話とはいえ、あざと過ぎないか?映画全体を覆う軽みのついでか?笑いを最後に取る伏線というヤツか?それだって、あざといだろう。
 そもそも、地方創生と云ってもそこの住人に元気が出なくてなにが創生できるのか。その後押しのため市の予算だか、国の地方交付金だかを宛がうのに子供のジャズコンテストでは名分が立たないということか。世知辛いのは百も承知だ、しかし、子供らの演奏ひとつも見せないで初戦突破しましたで済ませ。桑名市も教育委員会も彼らの進撃に目を見張ることなく金は無いとだけ言外に示しお終いなのか。
 押し付けられた地方創生への不快を示すにも、もう少し積極的な嫌味を挿入するよう制作陣に圧力をかけたら良かったろう。あるいは、この件に好意的でも動けないにせよ、嫌いだから動かんでも、必ずあるに決まっている働きぐらいは示したらよかろう。死んだふりなのか、それが意気地がないということだ。
 別にJ.K.シモンズにしごかせろとか、無理解な面々と鍔迫り合いしろというのではない。子供らにめちゃ楽しいっと言わせたいにせよ、金は無い、職も無いばかりを言い捨てにするな。この二つの問題で地方の担い手のもうひとかた、後援する桑名市も知事が顔見世する三重県も何の働きもしていない事を恥とすべきだ。この二点についてはやけに現実的で、子どもらの締まりのなさと成長の著しさの不釣り合いで非現実的なのと実に好対照だ。監督の初作品と聞くがよくないのが残念だ。しごきも鍔迫り合いも時代に似合わぬのかもしれないが、案外、何ら頭を使う事なく拒んだその結果がいまさらな地方創生でありこの映画なのではないか。
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