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エル・ゾンビ 死霊騎士団の誕生のhorahukiのレビュー・感想・評価

4.4
めっちゃ面白いスペイン産ゾンビ映画!
あんまり有名じゃないし、タイトルも適当(スペインのゾンビだからエルゾンビ)ですが、埋もれさせとくには勿体無い傑作だと思います。

あらすじ…
女2男1の3人で旅行中、主人公ベティとロジャーの2人が良い雰囲気になったことに嫉妬したバージニアが列車から飛び降り近くの廃墟へと消えて行った。翌日、死体となって発見されたバージニア。主人公とロジャーは友人の死の真相を探る中で、バージニアが立ち寄った廃墟が、悪魔崇拝を理由に処刑されたテンプル騎士団の墓地ということがわかり…という話。

あんまりゾンビ映画っぽくなくて、どちらかというとオカルトな雰囲気漂う怪奇映画といった感じ。怪奇ムード漂うゾンビ映画は初めてだったので新鮮に感じましたし、テンプル騎士団という設定にもバッチリ合ってて、めっちゃ好みな雰囲気でした。

悪魔崇拝者がゾンビとして蘇り人間を次々に殺していくというのは、キリスト教圏だからこその恐怖といった感じですね。

そして髑髏騎士団がその造形も含めてめっちゃ格好良いんです!本作のゾンビは生前がテンプル騎士団なので、馬に乗り剣を持ち集団で襲いかかってきます。黒衣を纏った髑髏騎士団が馬に乗りスローモーションで草原を駆け抜けるシーンの不気味で幻想的なゴシックムード溢れる演出は素晴らしいのひとこと。

ちなみにゾンビが馬に乗り集団で襲ってくるというのはコレが初らしく『ロード・オブ・ザ・リング』の黒衣の騎士の原型とも言われているそうです。

髑髏騎士団は目が見えず、音を頼りにして獲物を追いかけるという設定も面白いし、ゾンビたちとの逃亡劇でも派手なことをせずに、盲目設定を活かした静かな演出をしつつ、怪奇な雰囲気を前面に押し出しているのも大好きです。

DVDの特典映像によると『猿の惑星』の続編としてアメリカでは公開されたようです…。猿たちが人間を殺すために髑髏騎士団として蘇ったとかクレジットで言ってましたが、無理があり過ぎて笑いました(^_^;)

R2.11.3 再鑑賞
4.2→4.4

打ち捨てられた廃墟に対する別文化からの侵略。そしてそのしっぺ返しとしての逆侵略に崩壊のカタルシスが生まれている。発端がエジプトからの輸入ということを考えると、(文化的価値観の良し悪しは度外視して)、ユニバーサルやハマー等のミイラ映画的な侵略-被侵略と類似した関係性を見出せる。スローモーションに徹した髑髏騎士団の挙動が異界が現実を空間ごと侵食していくかのような感覚を生み出し、通常速度で動く現世の人々との対比により属する世界の違いを演出している。その異相が同一画面内へと収束することで、「侵略」とするのがお見事。主人公ベティと親友のヴァージニアの存在自体がこの時代のキリスト教的価値観からははぐれた存在であり、あの場所に惹かれるように吸い込まれていくということにも意味を見出せる。それが解き放たれる本作は、良い悪いは度外視した、打ち捨てられた価値観・文化同士の共謀なき共鳴であり、ラストの逆侵略のカタルシスは、そこに起因しているのは間違いない。やはり傑作。
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