しんたにゆき

アリゾナ・ドリームのしんたにゆきのレビュー・感想・評価

アリゾナ・ドリーム(1992年製作の映画)
3.8
《物語に銃が出てくれば、そいつは発砲されなければならない》。「チェーホフもそう言った」と言ってたのは誰だったっけ。原典でなく村上春樹が先に出てくるとこがださいなァ。

この映画は、この人がすきな、というか後々すこし複雑に形を変えて取り扱われる夢というモチーフの概念のあり方の説明のようにもみえる。ぜんぶ夢なんよ。でも夢みているのは現実で、夢は現実の分身で、現実によって変形した自分なの。
夢の話なんかすんなって言われるけど。

現実が夢のように、夢が現実のように、という描き方は、在りし日の(べつに今もあるが)芸術が夢みていた「まことしやかな嘘」とは全くちがう方法で現実を描く方法だとおもう。
そして真実にもみえる美しい嘘がみすぼらしいとさえ思ってしまうほど、現実が夢として存在することの多幸感と、こう言うとバカやが、これこそが真実だったんよねって思っちゃうとこがあるんよな。現実なのに美しいなんて、皆泣いて悔しがる。

映画が持っている真実の力と、より強い嘘の力のことを、すきな映画をみたときにはよくかんがえる。