蛸

私はゾンビと歩いた!の蛸のレビュー・感想・評価

私はゾンビと歩いた!(1943年製作の映画)
4.3
黒沢清や稲生平太郎が絶賛する作品ということで見て見ました。
邦題は原題の直訳なんですね。
このゾンビは謂わゆるロメロの「モダンゾンビ」以前のブードゥー教のゾンビで、夢遊病者くらいのニュアンスの存在です。
海岸を歩く女性の回想から始まる本作。主人公の看護婦は所謂名家に雇われてハイチに向かいます。美しい海に囲まれたハイチですが、船上での「輝く海は微生物の死骸で満ちている」というセリフは楽園の裏側にあるものを示唆しています。
「屋敷に隠された秘密」というストーリー展開や「幽閉された女性」というモチーフはとてもゴシックホラー的です。
屋敷での白いカーテンや窓のブラインドの影は、映像にほとんど表現主義的な効果を及ぼしています。
島の黒人がみな元奴隷の子孫で、彼らの間では生きることが悲しいことなので出産のたびに涙する、といったエピソードや、奴隷船についていた矢が何本も刺さった船首像などのディティールが物語に影を落とします。
ブードゥー教を徹底的に異質なものとして描く演出は、素晴らしいです。彼らの太鼓によって煽られる不安感は絶妙で、正に異界への扉が開かれたかのような印象を受けます。(特にサトウキビ畑を主人公が歩いていくシークエンスの幻想的な美しさにやられました)
ラスト5分の展開の美しさは感動的です。幻想文学が好きな人なら大好物の怪奇幻想映画の傑作です。
蛸