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霧の音のshikibuのレビュー・感想・評価

霧の音(1956年製作の映画)
4.2
傑作。
オープニングの横移動のショットが官能的。
山小屋で恋い焦がれた男女がひたすら、すれ違う映画。
2人とも最後まですれ違っていたことにすら気付かないのだが、山だけがそれを見つめてたと言わんばかりに、随所に背景に山が映る。それがことごとく見事。

上原謙がつる子を見つめるアップ→つる子が握り返す手のアップ→つる子が上原謙を見つめ返すアップ→ふたりが口づけをかわすヒキのショットの流れが美しい。
説明的なクローズアップが一つもなく、実にエモーショナル。

登場人物はみな山小屋の外からやってきた時、お目当ての人に出会えるのだが、つる子だけは出会えない。つる子の視点となる横移動のショットが登場人物の心情と重なり、焦らされる。
2人は小屋の中だけでしか会えないのだが、それだけに婚礼祝いの席を離れ、小屋を出た上原謙とそれを追いかけたつる子の2人を映したショットが印象に残る。

「パパって何のことだい?」「親のことですよ」の会話、笑いが起きていたけど、きちんと効いてくるんだよな。

終盤、囲炉裏で悲しむ上原謙と老人夫婦、その間につる子の子供がいるショット、父がずっと鶴折ってるという子供のセリフと相まって、死の香りがして不気味。ラストの横移動が幽玄的で美しくも戦慄する。霧の音。
メロドラマの傑作。
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