樹

センコロールの樹のネタバレレビュー・内容・結末

センコロール(2009年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

人間と組みながら、同族を食べ、相手の能力を取り込もうとする怪獣。
人と怪獣のタッグ同士の戦い。

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新鮮で魅力的な世界ですが、メッセージ性はなく、ハッピーエンドかすらもやや不明確な展開でした。戦っている理由も、怪獣が育つとどうなるのかも不明です。ですが、それでいいと思います。いってみれば作者の宇木さんの白昼夢をみているかのよう。観客としては、ただこの世界の雰囲気やアニメーションの快楽を味わうという楽しみ方でもいいのではないでしょうか。ですから、すごく自由に楽しみ易い。鑑賞者が能動的に作品に向き合いやすいです。
 人物と怪獣のデザインは少なからず魅力的です。特に怪獣は私も気に入りました。肉の質感が醸す適度な気持ち悪さはクセになり、無口な性格には愛着がわきます。
 全員がやる気ない感じも、好感が持てます。戦いの効率性とか関係ない。敵が目の前に迫っても腰を落として身構えたりなんかしないし、走ったりもほとんどしない。この気だるそうな雰囲気がなぜか心地よいし、新鮮でした。でもこういう気だるそうなキャラを嫌う人は結構いるのかもしれないとは思いますが。万人がすぐに理解できるタイプの魅力ではないのだろうな、とは思います。

とはいえ、アニメーション自体は気持ちよく動き、重量感も質感もちゃんと表れたアクション、メタモルフォーゼ描写などはかなり良いと思います。動きのテンポ、リズムは心地よく、アニメファンにとっても一見の価値があると言えそうです。
 キャラクターたちはダラダラしてるんだけど、あくまでダラダラしているのはキャラクターたちだけで、全体の進行自体がダラダラということではなかったです。

謎めいているという意見もあろうが、謎めきの魅惑を鑑賞後もずっと続けさせてくれる良い作りでした。想像を働かせるのは自由ですし、むしろそれは真っ当な鑑賞態度だと思います。露骨な暗示はなく、謎の背後は割と空虚だと察せられるようにできてるし、多分宇木さんの脳内でも、その辺の設定は宙吊りなのかなと感じました。推察ですけど。
 分からないことの気持ち悪さは、ひとまず感じられなかったです。不明確、不思議だという感覚そのものに、エンターテイメントとしての価値があるタイプとみなしています。
 
むしろ明確な欠点、というか気に入らないポイントは、汗の描写でした。私は人物の焦りや困惑を表すのに汗マークを頬あたりにつけるのを好まないです。コメディのシーンなら構わないですけど、そうでない場面で汗マークを見せられると、センスがなくチープなものに見えてしまう。(…あくまで好みの問題です)欲をいえば細かい仕草や、表情筋の微小な動きや、あるいは照明の効果とかで心情を描いてもらいたかったですが、それはちょっと贅沢な文句なのかもしれませんね。なにせ、動画は一人で作ったらしいですから。

続編はずっと待っていますが、どうなったのか心配です。時々予告を観る、という習慣が、もう4年程も続いています。センコロールじゃなくて全然別の作品でも良いから、観れると嬉しい。
樹