うめ

裏切りのサーカスのうめのレビュー・感想・評価

裏切りのサーカス(2011年製作の映画)
4.5
 気晴らし再鑑賞その2。インターネットで無料視聴できたのでついつい。レビューを書き始めた頃に一度書き留めてあったのだが、今回改めて観てこの映画への愛が溢れ出したので(笑)今回はみっちり書きます。(以前のレビューで「いいね!」をくださった方、申し訳ないです。)

 監督はスウェーデン出身のトーマス・アルフレッドソン。『ぼくのエリ 200歳の少女』で注目を浴び、今作は初の英語作品となる。私も『ぼくのエリ 200歳の少女』のストーリーと画作りに衝撃を受けて、今作を劇場で見に行ったが…冒頭5〜10分で惹き込まれた。北欧と言えば、何となく温かで可愛らしくほのぼのとした印象を持っていたが、トーマス・アルフレッドソンと『ミレニアム』シリーズが、私に北欧サスペンスの扉を開けてくれたような気がする。

 例えばアメリカにしか出せない華やかさがあるとしたら、ヨーロッパには、ヨーロッパにしか出せない陰湿な暗さがあるだろう。(それは歴史的な暗さと言ってもいいかもしれないが。)今作はそうした暗さが全体を覆い尽くしている。だが、同時に感じてしまうのは、そうした暗さと共存する一種の美しさだ。トーマス・アルフレッドソンの映像の魅力はそこにある。今作では終始、スパイの緊迫感や恐怖がありつつも、背景や陰影の使い方で映像の美しさを演出している。また各地でロケを行い、それぞれ土地の空気感をそのまま出したのも、その美しさに一役買っている。特に冒頭のブダペストのパサージュのシーンとイスタンブールの一瞬映る浴室のシーン。暗く地味な展開なのに、これほど強烈な印象を与えるのは、やはり演出によるものなのだろう。

 しかし展開が地味と言いつつも、その内容は非常に濃い。今作はスパイ小説や映画化もされた『ナイロビの蜂』でお馴染みのジョン・ル・カレの原作を映画化している。サーカスと呼ばれる英国秘密情報部にソ連情報部との二重スパイをしている「もぐら」がいると発覚する。その「もぐら」が誰なのか、サーカスを解雇されたジョージ・スマイリーが調査するというストーリー。冒頭から国を跨いで様々な人物や用語が飛び交うため、やや困惑するかもしれないが、大筋のストーリーはさほど難しくない。(クリストファー・ノーラン監督作に比べたら、うんと楽だと私は思います(笑))個々の台詞を理解し整理しながら観ていけば問題ない。公式サイトには相関図が載っているので、そちらを観て顔と名前と肩書きの把握さえしておけば、ばっちりいけると思う。

 ただ今回改めて観て思ったのは、大筋のストーリーの中に個人の物語や思いがぎゅっと詰まっていること。スマイリーと妻アンとの関係、スマイリーとソ連側幹部カーラとの関係、ビル・ヘイドンとジム・プリドーとの関係、スマイリーとコントロールとの関係等々…様々な人物が複雑に絡み合っている分、重厚な人間ドラマとして観ることも可能となる。また誰に注目するかで、大筋のストーリーの見方も変わってくるだろう。

 さて。ここからはキャストについて。まぁ、もはやあれこれ言わなくてもわかるだろう?っていうキャストの豪華さ。ゲイリー・オールドマン、ジョン・ハート、コリン・ファース、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ハーディ…その他、名は知らずとも「どこかで観たことあるぞ」という俳優が脇を固めている。で、皆だいたいスーツ着用…いいです。長身で身体にフィットしたスーツで決める男性の姿が大好きなのですが、そのオンパレードでどきどきしてしまいます(笑)またそれにトレンチコートなんか合わせられたら…うん、素敵です(笑)

 皆、スーツ姿も(あ、トム・ハーディだけスーツじゃないがあれはあれで男らしくていいと思います…って何の話だ(笑)?)いいのだが、やはり演技が一級品。そしてやっぱりゲイリー・オールドマンが素晴らしい。冒頭、眼鏡を買い替えるシーンから心奪われる。カーラと出会ったときの話を一人芝居のように、ピーター・ギラムに語る演技をするシーンは見事。全編に渡って物静かな雰囲気を醸し出しているが、それがこの作品の雰囲気を決定づけているような気がする。

 若干CG臭い部分があったり、教室でのジム・プリドーの行為が謎だったり(『ぼくのエリ 200歳の少女』にも似たようなシーンがありましたよね?未だにどういう意味・意図が含まれているのかよくわかりません…)したが、それ以上に色々と凝って作られていたので良かったと思う。個人的には、しっかり各国の言語が登場していたことが嬉しかった。英語、ロシア語、ハンガリー語、フランス語…言葉が登場するだけで全編英語の作品とは違って、説得力が増す。

 少し残虐なシーンがあるのでR15+指定となっているが、そういうのが大丈夫な方は是非!是非、是非!派手なアクションもセクシーな女性も、高級車も登場しませんが、間違いなくスパイ映画です。私はこういうの大好きです。


 あ、そう言えばコントロールが「もぐら」と疑う部下たちにそれぞれコードネームをつけていたけれど、コリン・ファース演じるビル・ヘイドンには「テイラー(仕立屋)」ってつけてたのよねぇ…む、『キングスマン』(笑)!?