あんがすざろっく

裏切りのサーカスのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

裏切りのサーカス(2011年製作の映画)
4.8
どこまでも抑制された作品ですね。
凄く難しいです。
だけど、一回見ただけでは、この作品の面白さは分からないのかも知れない。
頭脳戦が敷き詰められたスパイ映画です。
これは、観客も試されてる。
ちょっとした表情の動きで、どれだけの情報を汲み取れるか。
でも、それが理解できるのは、多分2回目の鑑賞においてだと思うんです。

僕が大好きな作品に「摩天楼を夢見て」という映画がありまして、不動産業界の壮絶なのし上がりを描いてます。
アル・パチーノ、ケヴィン・スペイシー、ジャック・レモン、エド・ハリス、アラン・アーキン、アレック・ボールドウィン、ジョナサン・プライスという、とんでもない豪華キャスト。しかも登場人物はほぼ上記の俳優のみ。ボールドウィンは登場シーンは10分にも満たないのに、かなり強烈なインパクトを残します。
もともと舞台劇の映画化なんで、台詞の応酬がメインで、放送禁止用語バンバン連発の会話劇ですが、名優達の演技合戦に目が離せないんです。

いずれこちらもレビューあげるつもりですが、とにかく本作を見て、「摩天楼〜」を思い出しました。
ただ、「摩天楼〜」は常にキャラクターが激昂しているので、真逆ではありますけど、本作は静かな中でキャラクターの駆け引きが描かれます。ポーカーフェイスのやり取りだから、気が抜けなくて緊迫感が作品全体を覆ってるんです。アクションもないのに、2時間弱。しかし、時間をまるで感じなくて、苦痛にもならなかった。

最初、えっ、トム・ハーディ何処に出てるの?って思ってたけど、最後のクレジット見るまで分かりませんでした…。
それから、カンバーバッチですね。脇をしっかり固めます。
キアラン・ハインズも、貫禄ありますよね。「ミュンヘン」でのインパクトの強さを思い出しました。とは言え、もう少し彼の出番というか、食えない恐ろしさも描いて欲しかったですね。

硬軟演じ分けるコリン・ファースも見事でした。
少しでっぷりした感じが、またキャラクターに説得力を持たせています。

ジョン・ハートの存在感も大きい。
本当にこの人は妄想に取り憑かれているのか、実はそれも計算済みなのか。
この人の言動で物事が動いてますからね。

しかし、そのハートさえも意のままに動かしてしまう人物が。
それも、姿を見せずに、台詞だけでその得体の知れなさを観客に与えてしまうんだから、参りました。
この感触は、いつか見たサスペンス映画の傑作を彷彿とさせますね。


でも、僕にはやっぱりゲイリー・オールドマンが最高。キレッキレの狂演も、「ダークナイト」シリーズのゴードン警部のような好漢も素晴らしいですが、本作のような、獲物をジリジリ追い詰めていく、静謐な雰囲気もたまらんものがあります。
「ウィンストン・チャーチル」も見なきゃな。

原題の「TINKER TAILOR SOLDIER SPY」も、素晴らしい。
そういう意味か。
しかし、なんで、POOR MANとBEGGER MANは含まれなかったんでしょう。
タイトルが長くなるから?
ちゃんとした意味があるのでしょうけど、お分かりになる方、ちょっと解説をお願いします…。

もう一度見返したくなる作品ですが、その前にこれは原作も読んでみたくなりました。
大人の時間を過ごしたわ〜。
渋い傑作です。
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