ホラーの名優ヴィンセント・プライスが自らの全出演作の中で最高傑作とした一本。舞台俳優が自分を酷評した批評家たちをシェイクスピア劇の殺人場面を再現しながら手にかけていくブラックコメディホラー。原題「Theatre of Blood(血の劇場)」。
70年代初頭のロンドン。著名な劇評家マクスウェルは彼の所有地に浮浪者が居座っていると連絡を受ける。迎えに来た警察官と現場に赴くと、浮浪者たちから一斉に刃物で襲われ警察官は助けようともしない。そこに2年前に自殺したはずのシェークスピア俳優ライオンハート(ヴィンセント・プライス)が現れ、彼の芝居を酷評したマクスウェルの新聞記事を読み上げて留めを刺す。後日、マクスウェルの葬儀に参列した評論家仲間たちの元に黒馬が何かを引きずりながら駆け寄ってくる。それは次なる評論家仲間の死体だった。。。
これは面白い!ヴィンセント・プライス主演「怪人ドクター・ファイブス」(1971)「怪人ドクター・ファイブスの復活」(1972)に続く“復讐連続猟奇殺人三部作”の最終作にふさわしい、集大成的かつブラッシュアップされた一本だった。
まずは設定が秀逸で面白い。自分の演技を酷評し自殺未遂にまで追い込んだ評論家たちを次々に演劇的手段で血祭りにあげる復讐殺人。「ドクター・ファイブス」も奇想天外な連続殺人が見どころだったが、本作の“シェイクスピア劇しばり”の殺害方法には必然性があり、その謎かけは残るターゲット評論家たちに恐怖を与え続ける。いわゆる“見立て殺人”の先駆はアガサ・クリスティー原作の映画化「そして誰もいなくなった」(1945:ルネ・クレール監督)が思い当たるが、本作のトリッキーで派手な殺人演出は、横溝正史映画「犬神家の一族」(1976)「悪魔の手毬歌」(1977)の先駆と言える。
評論家9名に対する10種類のシェイクスピア劇殺人はどれも練られていて、演出美術共に申し分ない仕上がり。ラストシーンで主人公が火を放つ劇場はロンドンにあった築70年の廃墟劇場で、本作の撮影で半焼し翌々年に取り壊されたとのこと。火の燃え上がり方は半端なく映画の完成度をさらに高めていた。
ヴィンセント・プライス自身がキャリア初期から映画評論家に酷評されて辛い思いをしてきたそうで、そのような背景が演技に滲み出て本作の魅力に繋がっているかもしれない。炎上する劇場で死の間際に「リア王」の最後の台詞を叫ぶ主人公ライオンハートに対し、生き残った評論家が「演技としては賛否別れる」とつぶやくのは完璧。
※オープニングクレジットで挿入されたシェークスピア映画
「オセロ」(1922:独)ディミトリー・ブコエツキー監督
「ベニスの商人」(1923:独)ペテル・ポウル・フェルネル監督
★両作とも主演ヴェルナー・クラウス
※殺人で再現されたシェークスピア劇
1「ジュリアス・シーザー」
2「ヘクター」
3「シンベリン」
4「ヴェニスの商人」
5「リチャード3世」
6「ロミオとジュリエット」※殺人は未遂
7「オセロ」
8「ヘンリー6世」
9「タイタス・アンドロニカス」
10「リア王」
※ダグラス・ヒコックス監督はCM畑出身