emily

21番目のベッドのemilyのレビュー・感想・評価

21番目のベッド(2009年製作の映画)
3.6
 ロンドンのイーストエンド、幼いころに別れてしまった父を探すためスペインからやってきたアクセルは毎晩クラブで踊りお酒を飲み、記憶をなくし違うベットで目を覚ます日々を過ごしていた。彼の21番目のベットがライブハウスの店長が住んでるシェアハウスだった。一方失恋してベルギーからロンドンにやってきたヴェラ。自分を偽り恋に落ちてみたりするが、なかなかうまくいかず・・・

 ピントの合ってない映像から目が覚めたように、バシッとピントが合い、アクセルのスペイン語のモノローグと共に綴られる。父親捜しに彼がつく嘘と、ヴェラが自分に対する防御線のためにつく嘘。並行してつづられる二人のエピソードには悲しみが漂い、それをなんとか払拭するように音楽と踊りとお酒がある。クラブやライブハウスで流れる多種多様な生の音楽だったり、レコードから流れるアナログの音楽だったり、心情をすくい上げるようにBGMが時に主役になり、小道具になり、大きな抑揚を作品に与えているように思える。

 悲しい時もうれしいときも常に裏切らずそこに音楽があり、それが心にすーっと溶けるように入ってくる感じ。うれしくてつい踊りだしてしまったり、きらびやかな描写ではないが、しっとりと行間を埋める空気感や構図が青春の危うさを物語っており、何も大きな展開が起きないからこそ、ひりひりと痛みを伴い、その中から希望を見出すことができる。人はそんな簡単に変わらないけど、出会うべき人と出会ったとき、ほんの少し心は自由を取り戻す。ラストの心と体の解放の演出が絶品。最後まで見てよかったって思える、心の引っ掛かりが一気に取れて、目の前の雲が全部取っ払われる感じ。大げさではないけど、爽快な気分を残してくれる。
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