emily

ブレスのemilyのレビュー・感想・評価

ブレス(2007年製作の映画)
4.0
刑の執行が迫った死刑囚の男チャンは自殺未遂を繰り返している。一方主婦のヨンは夫は浮気しており、家では常に空虚感を感じていた。チャンの自殺未遂をニュースでしり、彼に興味を持ったヨンは刑務所に会いにいく。残されたわずかな時間に”四季”のプレゼントをする事にし、壁紙と衣装と音楽を手に再び彼に会いにいく・・

 囚人たちは言葉を持たない。しかしその中に説明はないがチャンを好きな男がおり、会話のないやりとりの中で徐々に移りゆくチャンの心情を見る。一方家では最低限の会話があり、言葉を発するヨンの心情は一切浮かんでこない。チャンと会った時には笑みを見せるがそれさえも、作られた物に見えてしまう。死を望むチャンと、彼に四季を見せることで生きがいを感じるヨン。数回の面会はすべて監視カメラで顔の映らない人物により見られている。そう二人の面会は保安官たちの見世物、観客の見世物として、もう一つ枠組みを与えられる事で、より客観的に二人のやりとりを見せられる事になる。

 彼女はチャンに永遠と自分の話をする。当然彼が言葉を発する事はない。四季のプレゼントにおいても彼のためではない。結局それをやってる自分に酔っており、自身の夫との思い出を重なり合わせるのだろう。男と女が密室で会えばする事は一つと、盛りのついたように徐々にキスからエスカレートしていく二人。それを監視カメラの映像に切り替えながら見せていくのだ。まるで人の恋愛ごとを覗き見するのは楽しいだろう・・と言わんばかりに・・そうして二人の欲望はこのカメラの向こうの男にコントロールされているのだ。それは人は性を前にしたとき理性を失ってしまう動物であること、しかしそれが最も人間らしい感情なのかもしれない。

 死を望むのは自分が生きてるからできることである。彼女が男に入れ込むのは確かに帰れる場所がある安堵からかもしれない。皮肉にもその行動が夫の心をただし、家族を立て直すきっかけになる皮肉。言葉ではなく息遣いでみせる。女は自分の夫婦を男に重ね、気が付いたら男も同じ事を行っていたのかもしれない。だからこそ最後の最後に”生”を感じたのかもしれない。
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