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カフカの「城」のnetfilmsのレビュー・感想・評価

カフカの「城」(1997年製作の映画)
3.8
 映画は冒頭、別の町から流れ着いた1人の男を映す。彼は寒さのために立ち寄った酒場で暖を取ろうとするが、城の許可なしでは寝てはならぬと聞き、はじめてこの町が城に支配された町だと知る。彼は咄嗟にこの城に雇われた測量士だと嘘をつくが、担当者からは意外な返事が返って来る。89年に『セブンス・コンチネント』で劇場映画デビューを果たしたミヒャエル・ハネケは、それからコンスタントに2,3年に1本のペースで作品を撮るが、例外的に1997年だけは『ファニーゲーム』と『カフカの「城」』という2本の作品を撮っている。この2作の対照的な姿勢はこれ以降のハネケを考える上で非常に興味深い。『ファニーゲーム』の不快指数100%の残虐性、そして『カフカの「城」』の迷宮を極める複雑な心理劇。まるで鋭利な刃物と丸みを帯びた真綿のような対照的なベクトルには驚きを禁じ得ない。また『ファニーゲーム』で若者に蹂躙されるスザンヌ・ロタールとウルリッヒ・ミューエの悲劇的な夫婦が、『カフカの「城」』でも恋人役を演じている。おまけに『ファニーゲーム』では残虐な殺人鬼を演じたフランク・ギーリングが、今作ではウルリッヒ・ミューエの腰巾着として極めて喜劇的な役柄を演じている。『ファニーゲーム』と『カフカの「城」』は文字通りコインの表裏のような密接なスタンスを保つ。

 原作であるカフカの「城」は未完であり、その物語は解決を見ることなく中途半端に終わっている。そもそもカフカの生前、最後まで書き遂げられたのは『変身』くらいであり、『審判』『城』『失踪者』などの未完の遺稿はマックス・ブロートの手により完成させられた。カフカのもともとの原作は生々しい断片であり、終わらせることが困難だった。ハネケはこの未完の作品をほぼ改変なしで描いている。流れ着いた翌朝から主人公は城を目指すが、なかなか目的地である城には辿り着かない。2人の助手が付いてきて、1人の伝達係バルナバスがクラムとの間を取り持つ。彼に付いていけば城に辿り着くのではないかと思った主人公だが、辿り着いたのは彼の家だった。今作ではどういうわけか主人公が最初に抱いた目的地までなかなか辿り着かない。従来のハリウッド映画の脚本にはない「空回り」と「迂回」の物語が独特のペーソスを持って進行する。やがて主人公は酒場でフリーダと運命的な出会いを果たすが、それは決して愛ではなく、最初から彼女を利用し城の役職を手に入れようとする主人公の野心なのである。だが彼の愛情にかこつけた欺瞞が徐々に明らかになり、同棲関係は破綻する。それが終盤スザンヌ・ロタールとの別れの場面になった時、彼の感情が何度も葛藤する。この場面をハネケは奥行きのある印象的な長回しで描いている。右へ左へ様々な迂回を繰り返しながら、やがてこの物語は唐突に終わりを迎える。
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