櫻イミト

雀の櫻イミトのレビュー・感想・評価

(1926年製作の映画)
4.0
サイレント期ハリウッド最初のスター女優、メアリー・ピックフォードの後期代表作。南部が舞台の子供残酷スリラー。「雀」とは映画に出てくる聖書の言葉から。

アメリカ南部。町はずれの底なし沼に囲まれた農園に孤児を監禁して売買する農夫があった。劣悪な環境の中、孤児たちの中で年長のモリ―(ピックフォード)は、聖書の言葉「神様は一羽の雀にさえも情けをかけて下さる」を子供たちに言い聞かせ心の支えにしていた。そんな中、大富豪の幼い娘が誘拐され農園に持ち込まれた。ついに警察が動きだし農園の存在が知られることになったのだが。。。

孤児の監禁売買という衝撃的な設定とリアリズムな描写に驚いた。この舞台とは真逆に思えるピックフォードの快活さとのバランスが、本作の独特な魅力を醸し出している。

導入部の画面の気配から何故か「狩人の夜」(1955)を連想した。調べてわかったのだが、同作も本作も“南部ゴシック”と呼ばれるジャンルの典型作品とのこと。南北戦争前の南部を舞台にグロテスクな人物(人種偏見、利己的独善)が異常な出来事を引き起こすプロットと、社会問題を掘り下げるテーマが特徴で、本作はまさに当てはまる。湿り気に満ちた劣悪な環境の中で容赦なく描かれる孤児の悲劇。この暗部と反比例するようにピックフォードの存在は光を増し、両者の大きすぎる程の落差が映画を面白くしている。

このところサイレント映画を集中的に鑑賞してわかったのが、トーキーでは絶対に不自然で陳腐になるプロットがサイレントでは成立する場合があり、そこにこそサイレントの優位性があること。本作の残酷活劇もサイレント映画でのみ成立するものであり、光と闇の寓話をリアルタッチで描いた、唯一無二の一本だと思う。

「狩人の夜」の夜について、グリフィス監督の「散りゆく花」(1919)からの影響が指摘されているが、それよりも本作からの影響が大きいと思われる。聖書モチーフのプロット、そして同作で子供たちを守るリリアン・ギッシュの姿は、本作のピックフォードの未来像を思わせる。二人は同時代の親友でありライバルだったのだ。

※ピックフォードは本作で15歳ほどの少女を演じているが、実年齢は34歳で、少女を演じるのに悩んでいたとも言われている
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