荒野の狼

提督の戦艦の荒野の狼のレビュー・感想・評価

提督の戦艦(2008年製作の映画)
3.0
主人公のアレクサンドル・コルチャーク(1873-1920)は日露戦争にも参加したロシア帝国の軍人。ロシア革命後は、白軍の総司令官で写真を見ると冷徹な印象が本作でコルチャークを演じたコンスタンチン・ハベンスキーは似ている。映画はロシア革命前後の白軍側に共鳴した作りで、赤軍(共産党)は悪役となっていて、コルチャークは崩壊したロシア帝政を支持する愛国者のヒーローとして描かれている。クーデターを起こして軍事独裁体制を敷いた政治家などネガティブな部分は本作にはないので歴史の理解には本作のみの知識しかないと問題となる。
共産党側のポリシェヴィキとの闘いであるが、革命の途中で政権を握るケレンスキーなども登場するので、この辺の歴史的背景を学んでからのほうが戦闘は理解しやすい。ともあれ、この時代のロシアを描いた映画は極めて少ないので貴重な映画とは言える。当時、陸戦では馬が用いられており、本作でも銃剣での悲愴な突撃シーンがある一方で、海軍では巨大な戦艦に大砲が搭載されての近代的な戦闘であるのは驚き。
コルチャークの愛人アンナ・チミリョヴァは現存する写真を見ると美人であるが、本作でアンナを演じたエリザヴェータ・ボヤルスカヤは似ていない。本作は晩年のアンナがセルゲーイ・ボンダルチューク映画「戦争と平和」の撮影現場に登場するとことからはじまるが、実際アンナは同映画に出演している。また、アンナには夫との間に子供があるがコルチャークと関係してからは離婚している事実などは映画では伏せられている。
史実を無視して恋愛映画として本作を鑑賞すれば、不倫関係にはあるものの、長期間プラトニックな関係を保ち、特にアンナ側の純愛が描かれているので、一定の評価はできる。以下はアンナがコルチャークに宛てた手紙の抜粋。

散歩をしていたら、子供がけんかをしていた。「これは僕のだ」「嫌だ」と。その時、突然分かったような気がしたの。時が来ればきっと願いは叶う。独占することが目的ではない。待つことは楽しみ。決して苦しみではない。この世の全ての物理的法則に反して、与えるほど満たされるもの。
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