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シュトロツェクの不思議な旅のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

3.9
芸術一家を描いた「マイヤーヴィッツ家の人々」で芸術家である父親(ダスティン・ホフマン)が飼い犬の名前の由来を聞かれ、「西ドイツの映画に出てくるブルーノ」と答えるシーンがあって、ずっと気になっていた。本作品で解明されすっきり。

ブルーノ・S演じるシュトロツェクは音楽をこよなく愛する路上音楽家の優しい男。ただ、親の愛情を知らず、社会の常識も知らず、ちょっと風変わり。その純粋さは愛さずにはいられないけれど、役に立たない犬、負け犬と呼ぶ者もいる。だからシュトロツェクは自分のことを犬と呼ぶときがある。

本作品は主演ブルーノ・Sの魅力に負っている。シュトロツェクはブルーノ・Sそのものの経歴であり、知的障がいがあるとされ施設で育ち、成人しても外の世界を知ることはなく、ナチの医学実験の対象とされていた。終戦になって初めて施設の外に出ることができた。彼の両親のことも本作品のエーファが演じている。

ブルーノ・Sが亡くなったとき、ヘルツォーク監督は「私のすべての映画で、そして私が一緒に仕事をしたすべての偉大な俳優の中で、彼は最高だった」「彼に匹敵する者はいない。彼の人間性、演技の深さにおいて、彼のような人はいないのです」と絶賛している。

本作品はドイツに嫌気がさして、夢を求めてアメリカへ渡ったが、思っていたことと違って歯車が狂っていく絶望系の作品。話としてはどこにも希望がなく淀んだ気持ちになるんだけど、シュトロツェク役のブルーノ・Sに釘付けになる。素人の演技の凄さ、自分を全開して自分自身を演じる。本当にどこまでが素なのかわからなかった。

可哀想とか辛いとか悲しいとかの言葉より、「凄まじくみじめ!」まるで芸をさせられるニワトリみたいだった。

脇役もめちゃめちゃいい。
ピアノのうまいおじいさん。
この作品でも娼婦役のエーファ。

ヘルツォークにしか作れない日常と非日常の間をくるくる。
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