オトマイム

手を挙げろ!のオトマイムのレビュー・感想・評価

手を挙げろ!(1967年製作の映画)
4.8
所有物が増えるたび鍵が増える
結婚、車、別荘、愛人、
もしも鍵をぜんぶ無くしたら
捨て犬のように惨めになるかそれとも
自由の歓喜が訪れるだろうか

君を君の車の名前で呼ぶことにしよう
体を石膏で塗り固めたり
拳銃に撃たれて倒れるのもいい
今ここに存在するという証に

スターリンには目がいくつあるか、
ぎゅうぎゅうにつめこんだ列車内には目がいくつあるか、
毒を浴びて醜く崩れゆく肉体を見たことがあるか?

両手を挙げろ!踊れ!
大切なことは小さな声で語られる、そして
悪ふざけは水に流される


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雷に打たれたようだった。

本作は1967年に制作されたが検閲により14年間封印され、1981年に25分間のイントロ部分を加えて公開された。

【イントロ部分(プロローグ)】
ポーランドのシュルレアリスム画家・ベクシンスキーを彷彿とさせるディストピア、若き日のスコリモフスキ、ワルシャワ蜂起の真似事、ベイルートの戦士たち等様々な映像のかけらが印象的な効果音や音楽とともに滑らかに紡がれる。81年当時の彼の心象風景なのか。
14年経てなお続く彼の怒りが鮮烈に伝わる。

【本編】
コメダの音楽と破壊的・享楽的な馬鹿騒ぎの映像が溶け合ってゾクゾクするほど刺激的で美しい。シンメトリーに倒れこむなど計算され尽くした構図。白く汚れた顔が並びそれが石膏像の羅列にもみえる異様なカット。貨物列車内の閉塞感。
監督29歳の時の作品。彼のみずみずしく繊細な内面が高い美意識をもって表現されている。プロローグから入ることでこの鋭い感性がより際立ってみえると思う。スコリモフスキは詩人だ。


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因みに‘手を挙げろ’には3つの意味があるとのこと。「投降の命令」「雨乞いの踊り」「挙手」である。挙手とは、ナチスや北朝鮮などでもみられる一同、御意!という挙手のことであり、スターリン時代を象徴している。

既存の映像に新しい映像を付け加え完成させた作品といえばズラウスキー『シルバー・グローブ』が思い浮かぶが、本作はそれとは本質が異なる。本編は’67年にすでに完成していた。付加したイントロ部分は監督自身が冒頭で示しているように、彼の「日記」である。従ってこのイントロはどんどん増やすことも可能なのだ。

今年80歳になる彼は現在、主要な表現活動を絵画制作にあてているとのこと。日本での個展が実現するといい。また、初期作品が霞むくらい素敵な新作もみてみたいと思う。