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左利きの女のericoのレビュー・感想・評価

左利きの女(1977年製作の映画)
3.8
ヴェンダースの「ベルリン」などの脚本を手がけたペーター・ハントケの監督作(「まわり道」の4年後、「ベルリン」の9年前の作品)。ブルーノ・ガンツやリュディガー・フォーグラーといったヴェンダース組も多数出演していて、作風にも通じるところがある。

海外から戻ってきた夫に突然別れを切り出し、女は子どもと二人の暮らしを始める。女ともだちや編集者(彼女は夫との別居後、翻訳の仕事を始める)、偶然出会った俳優との静かな会話。何気ない言葉もあれば、ひどく唐突で観念的な言葉もある(この質感は「ベルリン」にも似ている)

夫の側に全くその気配もないのだが、女は「いつかあなたは私から離れていく」という予感だけですべてを決意してしまったようだ。と言って、その恐怖に押し潰される弱い女がそこにいるわけでもない。彼女は多分、その予感にただ「疲れて」しまったんだと思う。

人と人との絆が、ときに自分を絡めとる蜘蛛の糸に思えることがある。それを断ち切れば孤独が訪れることがわかっていても、孤独が自由と同義でもあることを看過できない時もまた、人生には訪れる。

映画は最後に「今ここに居るのに ふさわしい場所がないと嘆くのではない」という句で締め括られる。彼女は嘆く女だ。でもその嘆きを、彼女の浅はかさ故と断罪することは、果たして出来るものだろうか。

でかい小津のポスターが部屋に貼られているのと(日本人でもそんな人滅多にいないよ!)、リュディガー・フォーグラーが主人公の父親に「こだわりを捨てんとアメリカの映画には出られないぞ」と説教されるシーンには笑ってしまった。
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