Azuという名のブシェミ夫人

ぼくのバラ色の人生のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

ぼくのバラ色の人生(1997年製作の映画)
4.0
7歳の男の子リュドヴィックの夢は『女の子になること』。
スカートをはきたい!
お化粧がしたい!
いつか好きな男の子と結婚したい!!
可愛い少年の心に芽生えたキラキラと輝く想いが、空想の世界となって画面いっぱいに広がる。
それは彼が思い描くバラ色の世界。
バービー人形の様な女性パムが幸せメルヘンな生活を満喫するテレビ番組(ドラマ?)に影響されたファンタジー。
その世界がカラフルで可愛らしく、眩い光を放っているが故に、彼を取り囲む現実のトーンが余りにもシビアで辛い。
バラ色なんかじゃないんだよね・・・ほんとは。
そういう空想の世界を持たなければ、耐えられなかっただけ。
あの小さな心が傷つけられるのを見る度に、胸が引き裂かれるような気持ちになってとても苦しかった。

LGBTを取り上げた作品が数多くあり、また世界的にも同性結婚が認められる等の動きが見られる現代でさえ、まだまだマイノリティである人々への偏見は消えていない。
まるで精神の病気の様に扱われていた時代の彼らの苦しみは計り知れない。
生涯隠し通したまま、自我を解放出来ないままで人生を終えた方もいただろう。
そしてセクシュアルマイノリティである彼らを考える時、自然と大人の事を思い浮かべていた自分に気がついた。
そうだよね・・・大人になって目覚めた人も居るだろうけれど、多くの人は子供の時からリュドヴィックのような抑圧を感じていたのだろう。
ただありのままの自分で居ることすら許されない現実。
性は人格には関係ない。
異性愛者でも最悪な人間は居るし、もちろん同性愛者や性同一障害だって皆が被害者で正義では無い。
ただただその人の、その心で判断してあげて欲しい。

それでも、リュドヴィックの家族の葛藤だって理解は出来る。
とても酷い仕打ちだとは思うけれど、情けなく悲しいことに世間体って驚くほど人生に影響するんだ。
あの父親と母親を非難出来るとすれば、それはやっぱり他人事だからなのかもしれない・・・怒りを覚えた後に、ふとそんな風に思った。
リュドヴィックが絶望を重ねて空想することすら止めてしまった時、結果的にその空想が母親を目覚めさせたのは、やっぱり彼女が息子をとても愛しているからだろうしね。
全部理解出来なくてもいい。
でも蔑んだりはしないで欲しい。

メルヘンなオープニングとは打って変わって、涙が止まらない位苦しいシーンが沢山あって心に重さが残った。
お子さんの居る方には、また様々な感情が生まれるのではないでしょうか。
この後リュドヴィックに何色の人生が待っているのかは分からないけれど、とにかくどうか笑っていて欲しい。
思わずそんな風に願ってしまわずにはいられない作品でした。