アンダーシャフト

SF核戦争後の未来・スレッズのアンダーシャフトのレビュー・感想・評価

4.5
フォロー頂いてる方のレビューを読んで、気になって視聴。

一人のイギリス人女性ルースにフォーカスしながら、ある街で核兵器が使用されたその前後の様子を描いた作品。
自分にとって、今年観た中で最も衝撃的な一本となった。

イランとの関係をめぐり米ソの緊張が高まる中、ソ連がイランに派兵したことにアメリカほか国連加盟国が一斉に非難。ソ連はイランの安全確保と自国の正統性を主張し、アメリカからの即時撤退通告を無視。
そこでアメリカは、ソ連の軍事基地を空爆。
報復として、ソ連はアメリカ空軍基地を局地戦用核兵器で攻撃し、続けてアメリカ他西側諸国の重要軍事拠点に一斉に核攻撃を開始…

ストーリーは、シェフィールドで暮らすベケット家の娘ルースの様子を追いながら展開していきます。
妊娠が分かったことで彼と結婚し家庭を持つ準備を進めるルース。ニュースでは連日、米ソの軍事行動について報道されます。
F4戦闘機が頻繁に離陸する様子を見上げるシェフィールドの人たち。
毎日のように街で戦争反対を声高に叫ぶデモ。
不安を抱え、日を追うごとにスーパーは買いだめをする人で溢れ、田舎町へと逃げ出す家族が増えていきます。

そんな中、突如核攻撃警報が鳴り響き、その直後、ソ連のICBMがシェフィールド郊外のNATO空軍基地に着弾。
大きなキノコ雲にパニックに陥る街の人たち。
そして、2発目のミサイルがシェフィールドの街を直撃します。

微塵に瓦解する建物。夥しい数の炭化した遺体。地下の危機対策本部は地上に出る術を失い、行政機能は無効化します。病院は傷ついた人たちで溢れかえり、床は一面の血と膿で染まり、電気、水道といった生活インフラがことごとくダウン。
生き残った人たちは、わずかな食料と水を求めて暴徒化していきます。
両親も強盗に殺され、夫となるはずの彼も死んで、ルースは精神を病んだまま避難する人たちについて街を離れていきます。そしてその途中、農家の納屋で独り出産…しかし、その後も、被爆の影響は彼女に重くのしかかってきます…

これが核の恐ろしさだと実感しました。

タンサムの砲撃で死んでも、トカレフで撃たれて死んでも、もちろん悲劇であるに変わりはない。戦争は悲しく無益で愚かな行為であることは誰もが知っている。
しかし、核を含むABC兵器による被害は、他の兵器とは比べ物にならない深刻で広範なダメージを人々に残すことを、この映画は改めて教えてくれます。
それは人命を奪い、生活の場を再起不能に破壊し、田畑や水を汚染し、生き残った人たちをじわじわと死に至らしめ、その子や孫の人生を狂わせる。
文明や文化が根こそぎ消失し、荒廃した国土は前近代まで退化することになります。それが核の被害の現実…世代を越えて続く悲劇の連鎖が核の恐怖の本質です。

この作品は、普段自覚したことのないこうした核の無限地獄を直球で突き付けてきます。

覚悟なのか、使命感なのか、よくぞここまでの圧倒的なリアリティーで核の恐ろしさを真正面から描いたものだと気圧されつつ、その悲惨さと残酷さに吐き気さえもよおすほど。

核の恐ろしさを訴える映画は他にもあるでしょう。
しかし、この映画の持つメッセージは、自分も含め戦争被爆国に生きるみんなが直視すべきだと、今回作品に触れて改めて思いました。

この作品を教えてくれたTS様ほかの皆様に、この場を借りて心から感謝致します。