CHEBUNBUN

サウスランド・テイルズのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

サウスランド・テイルズ(2007年製作の映画)
2.5
【『重力の虹』になれなかった寓話】
皆さんは、ドウェイン・ジョンソンがカンヌ国際映画祭コンペティション作品に出ていたことをご存知だろうか?

2006年のカンヌ国際映画祭に出品された『サウスランド・テイルズ』は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』やギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』、ケン・ローチの『麦の穂をゆらす風』などと鎬を削りました。『ドニー・ダーコ』で脚光を浴びたリチャード・ケリー渾身のSF超大作だったのですが、蓋を開けてみれば大ブーイングだったようで、あの映画評論家ロジャー・イーバートもあまりの難解さに頭を抱えた代物だ。ブンブンも10年前、中学3年生の頃に本作を観たのですが当時のブログに「SFの要素を限界まで詰め込んだため、何回も観ないと理解に苦しむ映画である。」と苦言を呈していました。

さて、先日MUBIにて本作が配信されていたので観てみました。

訳がわからなかったのですが、少しまた感想を書いていこうと思います。

本作は、『ドニー・ダーコ』同様カルト映画を目指してカルト映画にすらなれなかった作品だ。

第三次世界大戦後を舞台に、監視する者、抵抗する者、そして巻き込まれたドウェイン・ジョンソンの3つの視点がぐちゃぐちゃに入り組んだ群像劇であり、どうでもよくなった世界に対して人々が猥雑にお祭り騒ぎする様が延々と2時間半近く続いている。サブカル要素として、ネタを仕込んでいるのだが、それが例えば、核爆発のメタファーとしてテレビにさりげなく『キッスで殺せ!』のワンシーンを流すみたいに非常に分かりにくいものだったりする。リチャード・ケリーは完全に『ドニー・ダーコ』での実績に胡坐をかき、自分だけが分かっていればそれで良いという気持ち全開で映画を作っているのだが、そのセンスが結局ヴィジュアルでゴリ押ししているだけで芸がないように見えます。そもそも、この映画自体が何故か第4章から始まっており、肝心な1~3章はスピンオフのグラフィック小説を読んでねという傲慢な作りになっているところもかなり臭いところあります。

ただ、そんな中でドウェイン・ジョンソンが輝くことでこの映画は少し脱臭され、今観ると割と面白いかもと思えてきたりします。今となっては、筋肉でどんな困難も破壊してみせる男、ファミリー・ファーストな男としてブロックバスター映画内を蹂躙しているのだが『サウスランド・テイルズ』の場合、誘拐されて記憶喪失となった男を演じています。記憶を失って、自分が何者なのか分からない彼は常に指をクルクル回し挙動不審にあらゆる陰謀の舞台に現れる。しかし、おばさんに銃を突きつけられるなどといった極限状態になると、記憶の断片を思い出して正気に戻ったりする。その切り替えのさり気なさと圧倒的存在感は、約10年後に知らない者はいないトップスターになる素質の片鱗を感じさせます。

まあ、『フリクリ』のような理解不能な混沌劇を楽しむと思ってみればそこそこ面白いのですが、それでも失敗した『重力の虹』のイメージが強すぎる作品でありました。
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