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処刑男爵のhorahukiのレビュー・感想・評価

処刑男爵(1972年製作の映画)
4.2
自分のルーツ探しもほどほどに!

「俺のご先祖様は処刑男爵なんだぜ!会ってみてぇよな!」とか何とか言って蘇らせちゃったは良いけど、ついウッカリ退散させる呪文を燃やしちゃったせいで、処刑男爵さんが大暴れして大変なことになるゴシックホラー。

令和一発目の映画は大好きなマリオバーヴァ監督作にしました。バーヴァにとって恐らく『呪いの館』以来久しぶりとなるゴシックホラー。単独監督作としては『血ぬられた墓標』でキャリアをスタートさせた監督にとっては原点回帰的な位置付けになるのかな。ちなみに同作へのセルフオマージュもありました。

軽快で明るいスコアをバックに主人公ピーターが自分探しのために飛行機でやってきたオーストリアへと降り立つところから始まる本作。そんな感じの現代劇としてのスタートを切るわけですが、自分探しという言葉の持つ爽やかな印象から一変、悪魔の城と呼ばれるピーターの先祖である処刑男爵が所有していた館へと舞台を移すことで一気にゴシックホラーへと変貌する。

空港の一階と二階を同時に画面内に捉えた空間演出や、数多いる人の中から名を呼ぶアナウンスとともに一気にピーターへとクローズアップするカメラのセンスはさすがのバーヴァ。大勢の渡航客という自分を包み隠してくれる人混みという蓑から一気に映画の主役という矢面へと有無を言わさず名指しで乱暴に引き摺り出される感じ。ゾクゾクします。

そして、そういった飛行機や空港を映していた冒頭と同じ世界観なのかと思うほどに古城の荘厳な内装が現実離れしており、周囲に立ち込める霧と深い森が外界への視界を完全に遮断し、青白い照明が霧を海のように浮かび上がらせる夜の幻想的な空気感と文明的な冒頭との対比が素晴らしい。

そういった空気感の変容を恐怖演出(スカし)によって決定づけるというやり口も面白く感じました。変にガチ演出を挿入せずに、ちょっと間抜けなスカしの演出にすることによってわざとらしくなくフランクな感じでゴシックの世界へと観客を自然に誘導してくれる。

ジャーロの要素を取り入れたような残虐な殺害シーンも、『知りすぎた少女』『モデル連続殺人』をもってジャーロを代表する監督として名を馳せるバーヴァの流石な貫禄を見せつけてくれるクオリティでした。そもそも盟友フレーダの後を引き継いだ『吸血鬼』がジャーロとゴシックホラーの合わせ技的な作品でもあったため、面目躍如といった感じですね。

急に鳴り響く鳴るはずのない鐘の音、立ち込める霧、嫌な感覚を呼び起こす時間的付合、生き物のように音を立て始める館、そして最後の防波堤の脆弱さ。お気楽に踏み入れた彼方側が現実的な実感を伴った恐怖となり迫ってくる瞬間の演出とかめちゃくちゃ良かったし、彼方と此方を隔てる門が開いたかのように吹き荒ぶ突風や、異界がそのまま流れ込んでくるかのような霧の侵入等、扉や空間の境界線を意識した越境が最高に好きでした。

虐げた者と虐げられた者。時代を超えたバトル的な展開は激アツだし、ホラー好きであのクライマックスにテンション上がらない人はいないはず。塔の周りに串刺しにされた死体たちとかホラー的に美しすぎる。ゴシックホラーにつきものな螺旋階段を印象的に利用した残虐シーンや登り降りにも面白いところが多かった。

人間ってどれだけ建前で取り繕ったとしても結局は虐げた側に強く惹かれてしまう愚かな生き物だという突き放したようなメッセージは、あんまりバーヴァっぽくないけど良かった。多分バーヴァの作品の中ではそれほど評価されてないっぽいし、他の作品ほどドカンとくるとこは少なめですが、私的にはめちゃくちゃ好きでした。ただ、コットンも良いけどプライスで見てみたかったな〜。

マリオバーヴァは世界的には色んな映画人たちの後押しのお陰で評価されてる監督ですが、日本での知名度が低すぎるのが本当に残念。令和になったんだし、そろそろバーヴァの日本版Blu-rayボックスたのんます!
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