Inagaquilala

天使の入江のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

天使の入江(1963年製作の映画)
3.9
アンギャンはパリのエトワール広場から車で20分くらい。この作品の主人公のジャンは、勝った金で車(古い形のシトロエンだ)を買ったという同僚の甘言に誘われて、このアンギャンのカジノに出かける。最初は見様見真似でルーレットに手を出していたジャンだったが、「13」の数字に賭けて見事的中し、ビギナーズラックで勝利を収める。そのジャンは入場する際に、カジノから追い出されるブロンドの女性を見かけていた。従業員に聞くと、女性はどうやら何回も出入り禁止を食らっている実業家の夫人らしかった。

このアンギャンの場面の映像は懐かしい。この作品は1962年公開のものだが、当時のアンギャンはまだそれほど規模も大きくなく、例えば、ノルマンディーのドーヴィルなどと比べても、格式でも売り上げでもかなり下回っていたと思われる。自分が最初にアンギャンに出かけたのは、1990年代だったが、その頃はまだこの作品にも登場する古い建物で、湖畔にこじんまり立つカジノだった。実は、アンギャンはパリから100km圏内にある唯一のカジノ。21世紀に入り、格段の発展を遂げ、いまや新しいガラス張りの近代的な建物に生まれ変わり、フランスで最大の売り上げを誇るカジノになっている。

さて、アンギャンで味をしめた主人公のジャンは、生真面目な時計職人である父親の制止も振り切って、一路、南フランスに向かう。ニースの裏町の安ホテルに宿をとったジャンは早速カジノに向かう。そこでアンギャンで見かけたブロンドの女性、ジャッキー(ジャンヌ・モロー)に遭遇するのだ。ここでも尾羽打ち枯らしていたジャッキーだったが、ジャンのアドバイスで賭け続けているうちに、大勝ちして大金を手にする。ふたりは意気投合して、今度はタキシードを新調して、ニースからモンテカルロに向かう。オテル・ド・パリのスイートルームに陣取って、カジノの聖地グラン・カジノに向かうのだが。

物語はこのギャンブルに魅入られたジャッキーとジャンの道行きが描かれていくのだが、ふたりの関係は、勝利したり大敗したり、その都度、微妙な変化を見せる。年上のファムファタール、ジャッキーに恋心を感じているジャン。しかし、ジャッキーは、ふたりの関係はギャンブルのパートナーだと突っぱねる。何度もパリに戻ろうとするのだが、その度に、カジノにまた足を踏み入れてしまう女性ジャッキーと、若い銀行員であるジャンの考え方は微妙に食い違う。それは負けたときほど露わになるのだ。

果たして最終的にこのふたりに勝利の女神は微笑むのか、そしてふたりは愛し合うようになるのか、そのあたりが作品の見どころではあるが、ラストはやや自分としてはあっけない感じがした。ニースのカジノで勝利して、それこそお大尽のような旅を始めるふたりだったが、自分にはこの結末は少々納得がいかなかった。やや肩透かしを食わされた感じだ。

この作品は「シェルブールの雨傘」を撮るひとつ前のジャック・ドゥミ監督の作品。ほんとうは「シェルブールの雨傘」を撮りたくて、カンヌに乗り込んできたジャック・ドゥミ監督だったが、カジノに集う人々から着想を得て、取り組んだのがこの作品であったらしい。ギャンブルにアディクトしているブロンド女性を演じるジャンヌ・モローの妖しい魅力が、画面いっぱいに振りまかれている(モノクロの作品ではあるが、もしカラーだったらもっと凄まじいものになっていたかもしれない)。ちなみにニースのカジノは見覚えがないなと思っていたら、ラストのクレジットには、撮影場所のカジノとしてカンヌとモンテカルロとジャン・レ・パンのみが載せられていた。
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