むっしゅたいやき

怒りの日のむっしゅたいやきのネタバレレビュー・内容・結末

怒りの日(1943年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

カール・Th・ドライヤー監督作品。
これも監督の前作『裁かるるジャンヌ』と同じく異端審問、いわゆる魔女裁判を通じて女性への社会の抑制と不寛容を主題に据えた作品です。

本作の特徴は登場人物達が皆、立ち位置が曖昧で弱い人である事が挙げられます。
それは作中で魔女だったのか否かを問われるアンナやマーテは勿論、それを審問する立場の人々にまで及びます。
魔女とされるマーテの言葉から、それが本物の呪いなのか自己暗示か分からぬ儘病に倒れる審問官。
審問会公証人であるアプサロンもまた、過去の行為に思い悩み、妻と息子の関係に揺れる人間として描かれています。
これは前作『裁かるる―』での超然として正義を疑わない、それ故現代人から見れば滑稽な程愚かしい者として描かれた審問官では無く、「一人の善悪両面を備えた弱い人間」が行った「一人の女性」へのレッテル貼りであり、審問である、と捉えられます。
私にはこの点にこそドライヤーの主張が込められている様に感じられました。

本作を撮影当時ナチス・ドイツに占領されていた、デンマークの社会情勢に当て嵌めてナチスへの批判を暗示していると見るむきも有りますが、原作となった戯曲もあり、歴史を知っている後世の人々の俯瞰的で牽強付会な意見の様に見受けられます。
先述の通り、本作は批判のみを向けた作品では無く、社会抑制と『裁くもの』を知悉し赦す事を説いた作品だと感じます。

グレゴリオ聖歌の『怒りの日』の合唱が素晴らしく、また切なく余韻を残す映画でした。

評価は個人的な好みで減点しています。
アンナの開き直ったふてぶてしい態度も、マーチンの裏切りも、私には醜く映って見えたので。
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