義民伝兵衛と蝉時雨

怒りの日の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

怒りの日(1943年製作の映画)
4.7
現代の科学の立ち位置に宗教が君臨していた時代。所謂、あらゆる物事が科学的に未解明で、現代のように科学が世の中の真理を解き明かすものとして世間一般の常識に君臨しておらず、その代わりに宗教が世の中の真理を導き出すものとして世間一般の常識を勝ち得ていた時代。本作の舞台はそんな時代のノルウェー。キリスト教の教義が世間一般の道理や常識として浸透していた中世ヨーロッパ。しかもその中世の中でも正統信仰の教義に反する者を異端として排除した「魔女狩り」が流行した大迫害時代と呼ばれる17世紀。17世紀は「17世紀の危機」とも呼ばれ、戦乱、疫病、政情不安定などが深刻だった混乱や波乱の時代。そんな暗黒時代の救いを宗教に強く求めた結果、狂信的になり「魔女狩り」が魔女熱狂と呼ばれるほどに流行したのだろう。近代の度を超えた科学の発展も人間が自然を超越して神に近づていき恐ろしいものがあるが、逆に科学が未発展で民衆が宗教の教義を噛み砕かずに丸々鵜呑みにしていた時代も等しく恐ろしいものがある。その教義に反している人々が裁かれ処刑された「魔女狩り」。魔女として告発された人々とは主に、集団的な妄想の犠牲者やマイノリティ、同性愛者や姦通者、隣人の恨みを買った人たち、悪魔憑き、などらしい...。見えてくるのは相違性や独自性、多様性の排除。告発理由として多かったのは、雨が降った、地震が起きた、授乳期の女性の乳の出が悪い、家畜が死んだ、などらしい...。科学の未発展時代の恐ろしさを感じる。魔女の証拠を裏付ける特徴としては、猫を飼っている、一人暮らし、高齢者、友人が少ない、教育を受けていない、などの証言が考慮されたらしい...。教義に沿って自分を律していなければ、あらゆる手段で告発され、一度裁判にかけられると無罪になることは稀で、釈放されることはほとんどなかったらしい。もし自分もその時代に生まれ落ちていたら教義に反し異端裁判にかけられ火刑にされていた可能性が高い...汗 多様な生き方が認められている現代に生かされていることに感謝。本作は実際にあった事件を参考にしているという点も凄まじさを物語る。作品全体に満ちているゾクゾクするような悍ましさは圧巻。そして1943年にナチス支配下のデンマークで撮影された本作は、魔女狩り=ユダヤ人狩りとして、ナチスへの痛烈なメタファーでもあった!? 中世の魔女狩りやナチスのホロコースト、幕府のキリシタン弾圧やアメリカの黒人奴隷制度など、人類の歴史に区別意識や迫害は付き物だが、同じく恐怖心を源泉として発展してきたあらゆる科学のおかげであらゆる因果が解明されていき更には進歩していき、ここ数年で多様性を認める社会が出来てきた。今ある自由は先人達の積み重ねられた犠牲と学習の産物だと改めて思わされた。


2024年1月5日、シアター・イメージフォーラムにて4年ぶりの再鑑賞。

明と暗
生と死
神と悪魔

人々の心の闇、そして光、そしてまた闇、、、

台詞
所作
詩情
様式美
圧倒的な格調高さ

天才映画職人ドライヤー

その高尚かつ陰鬱な、唯一無二の独特な空気感が、相変わらずに圧巻。延々と浸っていたくなる。