Jeffrey

怒りの日のJeffreyのレビュー・感想・評価

怒りの日(1943年製作の映画)
4.0
‪「怒りの日」‬

‪冒頭、魔女狩りが行われていた17世紀初頭デンマーク。つるせ、杭を打てと民衆が騒ぐ声。牧師と老女の魔女。助けを求める、尋問され、火炙り、アンヌとメレーテの対立、森の中で戯れる男女、そして嵐の一夜…

本作はC.T.ドライヤーが1943年に撮りヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞したデンマーク映画で、前作吸血鬼以来約10年ぶり短編映画を撮り、その翌年にナチ支配下の故郷で製作した1本で、彼にとっては復帰作で、我々には記念すべきドライヤー映画なのである。

さて魔女狩り映画は山の様にある。

ブレッソン、アルジェント、ロブゾンビと名前を挙げたらきりがない…本作の下敷きとなっているイェンセンの戯曲をドライヤー率いる3人で脚色したとの事。

そして舞台は17世紀初頭、そして本作を製作したのは第二次世界大戦下の最中…これで何が言いたいか察しが付くのは当然だろう。

最早魔女狩りをナチスドイツの残虐な殺戮、抹殺を意味してる。それに抵抗する人や告発する人がいる。
タイトルの怒りの日は正にナチがデンマークを支配したその日なのである。

そして牧師、母、妻の対立、言わば三角関係から三つ巴的な基軸が物語の構造になり、そこに牧師の息子で禁じられた恋に落ちる彼が現れ、ストーリーはより展開を進める。

いや〜老女が焼き死ぬ描写をはっきりとは見せないもののショックは大きい。

それに普遍的な場面もあった。しかし良く考えられてる映画だ。それは野外と室内での光のコントラストを変えている。対比することにより本作のテーマの1つでもある善と悪を強調したいのだろ…

個人的には長回し映画が好きな分、前作らの作風とは違い本作にはその様な光景は無かった。だがロングショットが目立つ。

また子供達が歌うキリスト教の葬送ミサ曲"怒りの日"は凄いメッセージ性が強い物である。

冒頭と終盤にも語られた言葉は考え深いものだ。社会の抑圧を見事に暗示て見せ、更に簡素な構成でここまで芸術ある作品に仕上げたのは流石としか言いようが無い…あっぱれ。

そして物語は魔女狩りがあるノルウェーの村で、老女が魔女と思われる。だが彼女は牧師が今の妻と結婚するべく魔女である彼女の母を助けていた事を知っていた…魔女狩りが蔓延していた中世を舞台に息子や妻、牧師を巻き込み魔女狩りの魔の手を映す…

最後に余談なんだが、本作の脚本を務めた1人モーウンス・スコット=ハンセンが10年余にわたって映画業から距離を保ってたドライヤーに対し再び映画を撮るきっかけを与えた人物らしい。

それにシュールリアリスティックを得意とするE.アーエスの美術はかなり素晴らしく、本作の総合評価に大いに貢献しているはずだ。‬

‪いや〜本作もとんでもない傑作だ。見事である…‬

「怒りの日」 Blu-ray版の感想

冒頭、中世ノルウェーのとある村。魔女狩り、火炙り、牧師、妖術、告発、室内ショットと野外ショット、モノクロのコントラスト、影と光、棺の前での告白。今、陰に潜む魔術が写し出される…本作は1947年にベネチア国際映画祭審査員特別表彰を受賞したドライヤーの傑作の1つで、この度BDボックスが発売され購入して1年も満たずに再鑑賞したが素晴らしい。この作品は前作「吸血鬼」から12年を超えてナチス・ドイツ支配下の故国で完成させた衝撃作として知られている。

原作はノルウェーの作家で心霊現象の研究もしていたイェンセンが16世紀に実際にあったとされる事件に基づき書かれた戯曲である。ドライヤーらしい魔女借りが蔓延する暗黒時代の中世を背景にした作品で、彼の特徴的な空間設計が徹底的に施されたリアリズムで放つ愛のエロスと狂気的な戦慄をモノクロームで映し出した傑作である。

さて、物語は中世ノルウェーの村に住む牧師アプサロンは、以前に妻をなくし、今は2番目の妻で若いアンネと母親との3人暮らし。そこにアプサロンの一人息子マーチンが帰郷する。アンネとマーチンは互いに惹かれ愛し合う関係になる。ところがアプサロンが急死すると、アンネが妖術を使って夫を死に至らしめたとの告発が起こる。

この作品も基本的には室内劇が冒頭から始まるのだが、物静かな空間の中にひときわ気になる音がある。それが時計の秒針である。チクタクチクタクと聞こえたり、いきなり無音になり時計の秒針すら聞こえなくなったりもする。だが、また鳴り始めたりする。少しばかり野外ショットもあるが、その野外ショット一つ一つがまた画期的なモノクロのコントラストを映し出して撮影している。陰が凄いのだ。彼の視覚的美しさの特徴は見るものを魅了してしまう。

上半身を裸にされ他の魔女の名前を言えと自問される老婆のシーンは何度見ても辛いし、マーチンを探しに行く野外ショットの陰が支配する演出はとんでもなく画期的である。やはり1930年代のドライヤー映画はほとんど垣間見れず、親友のネアゴーがドライヤーの本を出版したことによって徐々に復活していった話はドライヤーファンの中では有名な話だろう。それにしてもドライヤーは魔女や女性の受難と言う主題を好んでいることがわかる。特にこの作品では女性主人公の心理的な変化と内的葛藤が感じ取れる。

ところでこの作品エンドクレジットでスタッフやキャストの名前が一切現れない映画なのだが、なんとも珍しい。きっと抵抗なのだろう。
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