Chirico

heat after dark ヒート・アフター・ダークのChiricoのレビュー・感想・評価

3.3
90年代も終わりに差し掛かろうという頃、渡部篤郎にハマった。
きっかけは「スワロウテイル」のランだった。イェンタウンに暮らしながら唯一金に興味を示さない寡黙なエージェントは、赤面するほどクールであった。
続いては故伊丹十三監督、大江健三郎原作の「静かな生活」である。これもクールだった。自閉症の青年を演じるにしては、どうしてもクール過ぎるきらいはあったが、それでも私はこの映画と渡部さんの演技を愛した。
さらに、TBSドラマ「ケイゾク」だった。渡部さんのアンニュイとクールさは、ここで最高潮に達する。
あと、ウッチャンと共演した「ベスト・パートナー」ってのも大好きだった。
私の渡部さん熱は、「愛なんていらねえよ、夏」まで続く。
なんと癖のありすぎる役者さんであろうか。
最近、波留が主演した「ON 異常犯罪捜査官 藤堂比奈子」で白髪交じりのデカ長役で出演されていたのも観た。驚いたことに、全盛期と体形がほとんど変わっていない。

そんな渡部さんが、フェロモン全開で、ノリに乗っていた90年代後半、北村龍平監督とともに、オール山奥廃墟ロケで撮影された一本が、この「ヒート・アフター・ダーク」である。

北村龍平監督の作歴を観るに、00年代からは漫画原作作品も含め、「どろろ」や「ルパン三世」など、エンターテイメントな作品を多く引き受けておられるようだ。私はその手の漫画原作にあまり興味がないので手を出していない。
本作「ヒート・アフター・ダーク」は、監督が若かりし頃に撮った、若さと硝煙の匂いがする一本である。

物語としては、主人公渡部さんと相棒役の鈴木一真さんが、山奥でやくざとドンパチやるだけの話。
山奥の廃校や廃墟を使って、誰にも邪魔されず一本の映画を撮ってしまおう!というその発想自体、学園祭的なワクワクを感じさせるが、本作にはまさに監督やスタッフ達の青い衝動とも言っていい、「撮る」こと自体の楽しさが実にみっちりと詰まっている。ちなみに、男子校的なノリで女優は一切出演しない。
スパイスをくわえているのが、下腹に響く念仏を現代的なビートに乗せたような音楽だ。これのおかげで、流しっぱなしにしていても飽きなかった。
泉谷しげるが、作品の真ん中に立ち、物語の緊迫にややコメディアスな振り子の役割を担っている。

しかし、この頃の渡部さんは、本当に拳銃がよく似合う。
そして、繰り返しになるが、その拳銃が放つ弾丸には、青く、そしてシンプルな、映画への衝動を感じるのだ。
未完成であっても、その衝動はなんと眩しく、快活なものであろうか。
50分という決して長くない時間のなかに、キラキラした若い衝動がひしめいてる。
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