ジョン・ブアマンの仕事は知的かつ上品で、余裕たっぷり(好みから言えば行儀が良すぎるが)。情報の開示の仕方などは極めて親切だ。同軸のアクションつなぎを活用した感情表現は繊細で教育的。踊るビノシュの下半身にカメラをやることで、観客とサミュエルに欲求不満を抱かせたり、タバコの共有やベッドの共有を喜劇調に演じさせることで親密さを演出してみせたりする。残虐な行為に対する自己正当化の繰り返しがひとつの主題であり、主演陣ももれなくその射程にある。メロドラマはそこにうまく組み込まれているが、映画の飛躍を禁じているようにも思え物足りない印象があった。