衣笠貞之助監督の最後の劇場映画(共同監督)。史上初の日本とソ連の合作。日本側スタッフは撮影に宮川一夫、脚本に「生きる」(1952)など黒沢明監督の常連・小国英雄。主演は同年の「ウルトラマン」(1966~)で“怪獣殿下”を演じた子役・稲吉千春。製作は大映。
東京の歓楽街。十歳の孤児、健(稲吉千春)は、夜の巷で流しのヴァイオリン弾きをしている叔父(宇野重吉)と暮らしていた。しかしある日、実は父親が生きていてモスクワにいると聞き、何とか会いに行きたいと来日中のボリショイサーカスを目指して京都へ向かう。そこで出会った道化師ユーリー・ニクーリンにソ連へ連れて行ってほしいとお願いするが。。。
日ソ親善の子供向け映画かなと軽い気持ちで観てみたら、かなりの大作でとても味わい深い一本だった。
ソ連船で密航してナホトカからハバロフスクへ。自分もハバロフスクへ取材に行ったことがあるので様々な記憶が甦る。その後、サマルカンド、レニングラード、モスクワへと少年が一人旅をするのは荒唐無稽でがあるのだが、移動風景や各地の人々との触れ合いが上手い具合に描かれていて、久々に映画で旅情を感じた。何しろ鉄のカーテンと呼ばれた1960年代の東国ソ連での旅である。映像資料的にも貴重だと思われる。
終盤のプロットは予想できなかったもので実に意外であり秀逸だった。生きて帰りし物語を辿ってはいるのだが、心は帰郷できていないという落としどころは凄い。それは決してバッドエンドではなく、それぞれの人生の旅は終わらず続いていくという主張だと感じられた。観ているこちらも決して帰らない過去と行く先の見えない未来への旅愁を馳せた。
なお、大人になった健は太田博之(当時18歳)が、幼馴染だった道子は安田(大楠)道代(当時19歳)が演じている。
※道化師ニクーリンを演じたユーリー・ニクーリンはソ連を代表する喜劇役者のひとり。タルコフスキー監督「アンドレイ・ルブリョフ」(1969)などにも出演。