まつこ

13回の新月のある年にのまつこのレビュー・感想・評価

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)
4.7
愛するもののために性転換手術をしてまで愛を貫いた男の末路。
男にも女にも成り切れない彼が求め続けたものとは。

この作品にはファスビンダーの考える「死」が映されているように感じた。否定ではなく生の事象として自殺をとらえるところが何とも彼らしい。関係ない男の自害シーンで語られるこの言葉は彼の生き様にも反映されているんだろうなぁ。

(なんて思っていたら、伴侶の自殺がきっかけでつくられた作品と知り納得。妙にリアルなんだもんな。)

ショッキングな冒頭、急に始まるダンス大会、感傷的な過去。
シュールで吹き出す笑いから涙で滲むシーンもあり、ぐちゃぐちゃの感情に引っ掻き回されながらも徐々に惹かれては見守って、ちょっとでも前が向けたらいいのにと期待している。

でも、やっぱりそうなるんだよな。ファスビンダーはギリギリの人だったのかな。誰かを傷つけて愛の深さを測るような危うさをいつも感じる。

コリンファース似の主人公を演じたフォルカー・シュペングラーの仕草がとても優雅で柔らかくて素敵だった。男優さんって本当にすごいな。女性以上に女性になっちゃうんだもんな。

時折挟まれる叫びのような言葉たちが胸を掴んで離さない。恐怖すら感じる感情の高ぶりに苦しくなるほど彼が愛おしくなる。

愛って紙一重。どんな風にも人を変える。いくら自分が変わっても受け止めてくれる誰かがいなければ破綻してしまうのに。誰でもいいわけじゃないのがまた厄介。選んでは待ちわびて、勝手に期待して、絶望して、堕ちていく。

ファスビンダー鑑賞3作目。カルトで難解なイメージがあったけど、今作はとても観やすいエモーショナルな作品だった。

これが今のところ一番好き!そして、ホワイティ(の俳優さん)にこう毎回お会いしていると親近感が湧く。小津作品の笠智衆さんみたいな感覚。次作でも会えるのだろうか。何気に会えるのが楽しみになっている。
まつこ

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