Jeffrey

13回の新月のある年にのJeffreyのレビュー・感想・評価

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)
3.8
‪「13回の新月のある年に」‬

‪冒頭、1978年フランクフルト夏の夜。

公共の場で男同士の絡み、線路脇での暴力、男性から女性へと性転換したエルヴィラ。

修道院、教会、嫁と娘。今、1人の人間の人生への終止符を打つ数日間が垣間見れる…
本作はR.W.ファスビンダー監督による、性的マイノリティの1人の男の数日間を描いたセンセーショナルな一本で、原案から全てを担当した言わば力作なのだが、この度4kレストア版にて鑑賞したが凄じい孤独さ、受難な日々を過ごす彼の日常が淡々と映されていく…

あの牛を吊上げ、首を裂き流血する精肉工場のシークエンスのインパクトといったら半端ない…ひたすら流れるカメラに台詞が載っけられ延々と続く。

所で劇中の音楽が素晴らしく、マーラーやニーノロータ、ヘンデル、更にドイツ民謡迄もが流れ、ベートーヴェン、フランシスの壮大な楽曲が独特な映像に寂寥を与える。

さて、物語は過去に結婚し、娘もいる男が女性に性転換をする。それはアントンと言う男を愛してしまったからだ。だが、性転換をしたエルヴィラは他の男と暮らすも、その男は家を去り1人傷つく彼。

そこへ娼婦のツォラが彼をサポートする。軈て2人はかつてエルヴィラが勤めていた工場に行き、彼の育ての親シスターを訪ねて行く。

彼は過去を振り返り、妻、娘とも会う…と簡単に言うとこんな感じで、ファスビンダー作品常連の役者が揃っていて、主演のV.シュペングラーは素晴らしい。

本作の見所、と言うか画期的なのは既に普遍化したストーリー性を持っている事だ。何が言いたいかと言うと、この映画は同性愛を風変りに(女装し男性を愛す)捉えてるのだが、基本的に今で言うLGBTを扱う作品には既に偏見に満ちたストーリー性で描かれる物が数多くある。

だが本作に至っては寧ろ逆に寛容な空間が恰も存在して居る様に見せてる。従来の、現在のLGBT作を観ても必ずそこには罵詈雑言に差別される彼等、彼女等が居る。

だが本作は同性愛者も普通とされる人々の社会で普通に暮らしているのだ。実際に監督の伴侶が自殺し、それへの想いを映画化した様にも感じながら、実際にはそうでは無いんじゃ無いかと感じる部分もある。

時既に遅しをテーマの1つに冒頭の暴力描写で主人公の悲劇的な物語は暗示されていた。にしても一室で自殺しようとする男やまるで精肉場で牛が殺され皮を剥ぎ取られ、食肉されて行く場面の暗示が凄い…中々パンチの効いた演出だ。

それに"声"だけが追加で画面に入る二重音も彼の独創性に満ちる。

それに過去を重要視される話なのに回想がなく、ひたすら現代を進むのも珍しい。本作は文学的にも優れた作品で虚構性を排除出来無い作品として、また哀惜映画であり、サークの様なメロドラマを彷彿とさせる映画として語り継ぐだろう…。‬

‪余談だがファスビンダーの作品って同性愛をテーマにした作品がいくつか有るが、本作の様な性転換した人物を主人公にした作品は初めで、いつもながらにテロやマイノリティ等、論戦を巻き起こす作品をブレにずに撮るのはプロフェッショナルさを感じてやまない…お勧め。‬
Jeffrey

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