しんご

イノセンスのしんごのレビュー・感想・評価

イノセンス(2004年製作の映画)
4.2
男女問わず幼少期に「人形遊び」をする人は多いと思う。ただの遊びと思うなかれ、心理学的には人形に語りかけることで自分の不安を和らげ同時に社会と繋がる予行練習をするという意味があるんだそう。そんな子供達にも友達ができ、いつし人形との「対等」な蜜月も終わりを告げる。その過程が正常な「成長」と呼ばれるのだろう。

本作はそんな人間と人形の関係が基幹にある。「ガイノイド」と呼ばれるロボット人形が人を殺害して「自殺」する事件が発生する所からストーリーは始まる。ガイノイドは工場などで稼働するロボットではなく愛玩用として色んな人の黒い欲望のはけ口となるために製作された存在だ。全身義体のバトーと刑事上がりのトグサは事件を追う中で意外な真相を知ることになるが...。

「ブレードランナー」(82)に代表されるサイバーパンク映画では「何をもって人と定義できるか?」がしばしばテーマとなるが本作もそのテーマと無縁ではない。前作「攻殻機動隊」(95)がそのテーマを真正面から描き切ったとするなれば、本作はそこから派生して「なぜ生身の人間はそこまで傲慢になれるのか?」というメッセージを投げかけているように思える。

全身義体のバトーは愛玩用として製作されたガイノイドに対してシンパシーを感じ、その感情の流れが本作の深みとなっている。「対等」な関係であった筈の人形をいつしか人は下位の存在と見なしそこには生命も主張もないと決めつけていく。そんな恣意的な「序列」を思い切り揺さぶる押井守監督の演出はとにかくスタイリッシュ。

ハラウェイが人形について語るシーンは含蓄に富んでいるし本作を観る上での大事なヒントが隠されている。彼女の声を演じた榊原良子さんは相変わらずシリアスな演技させたら物凄い貫禄があって好き。

それに加え、本作においては古今東西の人物の言葉の引用も印象的だ。聖書に始まり、孔子、ウェーバー、尾崎紅葉など本作関連の名言を絡めた会話は知的だしとにもかくにも渋い。彼らは電脳化してるから言葉をすぐ脳内で検索できるからいいけど普通の人間なら絶対無理だよ笑。声優さん達もちゃんと意味を咀嚼していないと演じられないから大変だったろうな。

事件の真相に迫るクライマックスで登場する草薙素子はやはり本シリーズの顔だし、彼女とバトーの会話はやはりたまらない。終盤バトーが怒鳴るシーンに「人間の醜悪さに対する怒り」が全て表れていた気がする。

難解だけど何回も観たくなる作品。
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