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恐怖の雪男のsleepyのレビュー・感想・評価

恐怖の雪男(1957年製作の映画)
4.1
カッシングがいつもどおり最高な、ハマープロの意欲作****

これは面白い。ヒマラヤの山々とチベット仏教寺院を舞台にしたエキゾチックな探検行。今風の(というか昔としても)活劇らしい活劇はなく、雪男の異形の造詣に驚く映画でもなかった。個人的にはUMAハンティングを扱った探険ものであり、超常ものSFに近い感覚だが、非日常空間での恐怖は描かれるし、フォークロア趣味もある。石坂浩二氏のナレーションこそないがわが国が誇る空想SFの名作「ウルトラQ」を思い出させる味わい。ナイジェル・ニール原作による英BBCのTVシリーズ、Sunday Night Theatre中の1作 The Creature (1955)のリメイク。日本では劇場未公開で後にソフト化。BDも廉価で出ている。英国が誇る怪奇スタジオ、ハマー・プロが大々的にヒマラヤ・ロケに挑んだ意欲作。

「ウルトラQ」等にも見られる文明批評・超常現象(ここでは読心、第六感や千里眼)がまぶされていて、存外深遠かつ高尚なテーマが全編に流れている。人間の驕り・自信過剰・謙虚さの欠如・・。雪男(Snowman)は、人間よりも体力的、感覚的に優れているが争いを好まず、人間の手の届きにくい高山でひっそりと暮らしているのか・・。雪男(族?)と人間の生臭さとの対比が印象的だ。(カッシングを除いて)彼らを追うパーティの目的はハントであり商売目的。これに気づくカッシングとパーティとの反目が描かれるが、雪深く気候の変わりやすい高山ではそう言ってもいられない。錯乱、策略、狩る者は追われる者となり、孤立無援の焦燥が皆を襲う。妻たちの救援パーティは間に合うのか?

ハマー・フィルム常連俳優の一方の雄(と言っていいと思う)ピーター・カッシングのノーブルでジェントルな植物学者(登山家でもある)が抜群に良い。マッドな役で異彩を放つことも多い印象のカッシングだが、本作では理性的かつ倫理的な博士を演じ、知的な瞳や行動がカッコよく、すべてが済んでからの僧長との言外の含みも良い。パイプを使うさまも絵になる。いくつか観たがまだまだ大いに観ていきたいと思わす魅力を放つ。遭遇時のあの顔・・。

また、雪男の存在を実は守護し、秘匿することを使命としているように思えるチベット仏教徒とラマのミステリアスな存在がユニーク。特にラマになるアーノルド・マーレが雪男との遠隔交感、未来予知、暗に白人たちやその文明の至らなさを飲みこんで接する描写が印象的だ。リメイク元のThe Creature (1955)でも同役を演った(さらにカッシングと、もう1人も同様とのこと)。

原案・脚色のナイジェル・ニールは Sunday-Night Theatreの他、TV, The Quatermass Experiment,(「原子人間」1955)、Quatermass II(「宇宙からの侵略生物」1957)、そしてQuatermass and the Pit(「火星人地球大襲撃」(1967))(すべてTV)を手掛けた。さらにこれらの映画版3つも脚色し、また、ジョン・オズボーンと仕事したりもした(「怒りを込めて振り返れ」「寄席芸人」(未))。

監督は英国のヴァル・ゲスト(上記の内、映画版「原子人間」「宇宙からの侵略生物」、「007カジノ・ロワイアル」(1967共同))で知られる。撮影はそのキャリアのほとんどがハマー作品のアーサー・グラント。モノクロのハマースコープで捉えた雄大なヒマラヤが持つ、白日にさらしてはいけない存在を隠すような雄大な空気、助けの及ばない孤立感と苛酷さ・閉所恐怖的錯乱を表してうまい(一部既存フッテージあり)。スタジオセット部分とうまくつなげていてハマーのプロダクション・ヴァリューの高さが窺われる。修道院内の異文化の香りするエキゾチックな造詣の美術もおどろおどろしく撮る。モノクロ、スコープで正解だった。真摯かつ堂々たる作品。自然の摂理や神秘性にも目配せし、ハマーなりの文明批判も含まれている。

The Abominable Snowman, 1957, UK, オリジナルアスペクト比(もちろん劇場公開時比を指す) 2.35:1(hammerscope)91min(85min,US)、B&W, Mono, ネガ、ポジとも35mm

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