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ヒズ・ガール・フライデーのseijunのレビュー・感想・評価

ヒズ・ガール・フライデー(1940年製作の映画)
4.5
“Hey guys, you ever see that really old movie, Empire Strikes Back? “
—Captain America: Civil War(2016)

80年代の作品が「古い」とされるのが映画をとりまく現在の環境である。いわんや戦前に製作された映画の記憶などは風化の一途をたどっている。映画についてかろうじて教科書的な知識を持っている層にとっても、それらの作品は生きた娯楽ではなく、カビ臭い教養の一部と思い込まれている。つまり、昔の映画は端的に自分を楽しませるに足らないというわけだ。

付け加えておくと、これは彼らの無知と臆見を糾弾するものではまったくない。自分の映画体験を顧みても、ハリウッドで製作された80年代以降のアクション映画という、極めて特殊な作品群を映画の本質を体現するものとして受容してきたし、今でもそのバイアスから自由ではない。自分もまた先に挙げた環境の一部だ。

しかし、『ヒズ・ガール・フライデー』を観たあとにも同じ認識を維持することができるだろうか。『ソーシャルネットワーク』や『シン・ゴジラ』などにも劣らぬ高速度のセリフの応酬。ヒートアップしたその空気を絶妙に差し挟まれるサスペンスが一気に冷やす。一瞬たりとも弛緩することなく駆け抜けるストーリーは、刺激に慣れきった現代の観客を十分に喜ばせうる。

とりわけ、ロザリンド・ラッセル演じるヒルディのインテリジェンスとエレガンスは比類がない。紫煙のようなしなやかさで周りの男を翻弄して見せるとともに、氷柱のような論理で意志を突き通す彼女の造形は、「女性の解放」のような重要だがそれだけに陳腐なスローガンに収まらない強度を備えている。

古い映画といって遠ざけておくにはあまりにも惜しい傑作である。
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