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終の信託のotomisanのレビュー・感想・評価

終の信託(2012年製作の映画)
4.5
 民代が江木殺しを最後否認しなかった検察での場面に変にもどかしさを覚えた。患者の心中に深く触れてしまう? 恋心と云うのか。居なくなられたらどうしていけばいいだろうと思うような相手なんて中々おるまい。脳死の瀬戸際にあって二度と語ってくれない相手で、意識はなくとも同じ痛苦を分かっている、それでも状況を見返せば殺した部類になるなら... 殺意の否認を続ける方が余程心に澱が溜まってきそうな気がした。
 民代にとって江木が大事な人になる経緯を見てきた者には検察の尋問は真に味気ない。しかし、物語の外の事ながら、こののち続く尋問でも、江木との交流の経緯を民代は口外するまい。それを誰のためとも問うまい。また、いきさつを知らぬまま闘病日誌を提出したのは細君の民代への感謝であったろう。裁判で民代の本心を曝して真実をかき乱し、あたら人の心を荒らす事が無い終わり方がよかった。
 恋心と言ったものの、江木にとってはどうだったろうか。二人、河口からの戻りで一歩立ち入ってきた民代をどう迎えたか知る由もないが、互いに何も言わず民代から襟巻を自然に受け取る江木。日誌の延命を断る件はまさにこののち記されたのだ。
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